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楽園  (お題 紅一点の魔物)

(1242文字)
 大学に行くと、購買部の掲示板にチラシがある。
 奨学金の返済の為に割のいいバイトを探していた。
 そのチラシはA4用紙にモノクロの簡単なもので、およそ本気で人を集めようとしているように見えなかった。
 しかし僕は「楽園」の文字に計らずも釘付けになってしまった。
 なんだろう。この感覚…胡散臭いじゃないか。闇バイトじゃないのか。
 そんな思いとは裏腹に僕はチラシのQRコードを読み込んでいた。

 講義のあと、僕はマックで読み込んだPDFを開いた。
 「楽園実験に参加しませんか。報酬は一週間で1000万円。
 条件は
 ☆一週間実験施設から一歩も出ないこと。
 ☆また参加希望の方には事前に添付の試験を通過していただきます。
 一週間の滞在はまさに楽園。温泉付き五つ星ホテルで豪華なお食事をお楽しみ下さい。レアウィーヴの寝台はまさに極楽。」

 僕は迷わず試験を受けた。高度の学力、知識、また社会規範を備えたリベラルな人間を探している様子が伺える。
 通過した僕は、次に飼い猫の美智が心配になった。
 うちへ帰り、自動給餌機のセットや、飲み水の工夫など万全を期した。
 
 家を出るとき美智に実験のことを聞かせてから
「待っていてね。いい暮らしをさせてあげるから!」というと、美智はありえないほど馬鹿にした顔をした。

 さて、選ばれし者達が集まってみると男ばかり、しかも眼鏡率がやたら高い。
 僕たちは説明を聞きながらコーヒーを飲んだ。麝香猫の糞から取り出した最高級のヤツだという。

 美智が僕の顔を引っ搔いている。僕は慌てた
 「美智、どうしてこんなところに!?」
 「あにゃ っぱ だまだま ちゃかちっち にげっぽぃ」
 「!」逃げろと言うのか?なんて中途半端な人間語だ。
 あたりを見回すとネズミが沢山走り回っている。
 一匹は美智に捕まって、手の下で足掻いている。
 「これ、美智やめなさい」そういってムズムズするお尻を掻くと、なんとネズミの尻尾が生えている。
 ということは、走り回っているネズミたちは他の被験者なのか。
 どうやら美智のお蔭で僕は変化の途中で目覚めたらしい。
 美智、僕の為に来てくれたの?
  「ぺぇっ ねじゅうまうま べろん!」美智はいう。
 僕のことも食べるつもりだったんだろうか?どうも言葉が分かるようになったのは半端なネズ変をした僕の方らしい。
 他のネズミたちは美智の言葉に阿鼻叫喚だ。

 ともあれ僕は美智を抱えてホテルから逃げ出した。
 後ろから主催者が追いかけてくる。
 「こら、ネズミが足りないんだ!実験動物になりやがれリベラルめ。知識層は政策の邪魔にしかならん!!」

 僕たちは安アパートに逃げ帰った。
 僕のネズミの尻尾は治らなかった。今も美智が遊んでいる。あッ痛いじゃないか。手加減してくれよ。猫は魔物だねぇ。
 それにしても。
 実験台にされた男ネズミたちの中に紅一点だったね、美智。


 
 

 山根あきら様
 初めて参加させて頂きます。
 
 企画をありがとうございます。
 よろしくお願いいたします。
 

 
#青ブラ文学部

追記です!

山根あきらさまの
青ブラ文芸部にて記事をご紹介頂きました。
山根あきらさま ありがとうございます!


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