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アイデン&ティティ(2003)

アイデン&ティティ(2003、『アイデン&ティティ』製作委員会、118分)
●原作:みうらじゅん
●脚本:宮藤官九郎
●監督:田口トモロヲ
●出演:峯田和伸、麻生久美子、中村獅童、大森南朋、マギー、コタニキンヤ、岸部四郎、三上寛、ポカスカジャン、大杉漣、平岩紙、塩見三省、あき竹城

息の仕方を知ってるなんて奇跡だぜ

今の一位はビリッカスになる。時代は変わるんだ

ハーモニカを吹く姿に歌詞の一節が台詞のように現れる。

ボギー!俺も男だ』のハンフリー・ボガートよろしく、スピードウェイのギタリスト中島(峯田和伸)の前にボブ・ディランがことあるごとに登場し励ましや慰め、あるいは諭す言葉を語り掛ける。

この映画での峯田はパーマに眼鏡で、くるりの岸田繁に似ている。

「こんなのロックじゃねえ!」というような台詞が何度か出てくるように、ロックを音楽ではなく”生き方”として捉える純粋な男のもがきが描かれている。

不幸なことに不幸がなかったんだ」というロックに対するコンプレックスを吐露した独白がまた、この現代日本における「ロック」の在り方の複雑さを物語っている。

十年以上前に『SNOOZER』誌上での田中宗一郎による甲本ヒロトへのインタビュー記事の中で「ロックは観念的不幸を出発点にしている」という言葉があったのを思い出した。

あくまでも最低限の生活保証がされた上で、反骨精神や体制への怒り等を音楽という表現手段に昇華し、己の商売にしていく。

その結果としてロックというスタイルが生まれるはずが、まずロックをやりたいという動機からスタートし、その精神性を純粋に突き詰めれば突き詰めるほど自分が信じるロックの自己否定に陥ってしまう。

純粋すぎるロックへの理想、それを裏切って大人になるべきなのか、いつまでも囚われていくべきなのかで中島は葛藤する。

ラストは観客が消え、ライブ会場で中島が恋人(麻生久美子)と一対一になる演出でも表現されているように、大衆ではなく一個人に向けた音楽というものを通して自分の答えをつかんでいく。

結果恋人がいる奴が勝ちとかではなく、ロックというのは圧倒的に「個」の音楽だからであって、それは峯田がライブのMCでもいっていた「きれいなひとりぼっち」という考え方にも合致することだ。

・・・なんて考えてたけど、それにしても麻生久美子が女神すぎやしないかい!?

DVDのコメンタリー(田口トモロヲ、みうらじゅん、峯田和伸の3人)では「麻生さんもボブ・ディランではないか」と誰かが言ってたけど、あまりにも中島にとって最高な彼女すぎるので、ディランと同じく幻の女神として鑑賞してみても面白いかもしれない。

ウソを本当らしく表現するのもまたロックの神髄である。

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