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箱男(2024)

箱男(2024、映画『箱男』製作委員会、130分)
●原作:安部公房
●監督:石井岳龍
●出演:永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市、渋川清彦、中村優子、川瀬陽太

安部公房原作の『箱男』の映像化と考えると疑問に思うこともあるが、令和版と考えるとこの映画化不可能と言われた作品を頑張って映画として見事に仕上げたなという感想。

ノートの断片がそのまま作品として存在する原作をそのまま映像化すると相当にわかりにくいものになるので、ある程度"ストーリー"を基盤とした作りになっている。

そして原作内では(安部公房作品の例にもれず)主体性は与えられず、あくまで対象化された存在として配置される看護婦の「女」が自我を持ったヒロインに設定されている。

都市における無記名性の獲得と帰属からの脱落というようなテーマが中心だった原作に対し、どちらかと言うと箱の深部の闇への追求といった哲学的なテーマに比重を置いていたかなという印象。

原作は当然小説なので、他の安部公房作品同様「ノート」が重要アイテムとして出てくるが、この映画では箱の中から覗く小窓を映画のスクリーンと同化させる演出が良かった。

映画館の中も箱の中と似ている。

スクリーンに映される映像が視界の全てとなり現実は虚構に取って代わられる。外で大雨が降ろうが風が吹こうが何も関与してこない。認知しないものは存在しない。妄想に溶けた主観の宇宙。

ただ、この暗示は映画の最終盤になって出てきたのでもう少し小出しにしてもよかったかなと感じた。

箱を被る男=箱男ではなく、箱の中で自らもしくは他者によってノートに記録されたもの=箱男であるという、現実と虚構の狭間の存在であることへ着目した視点は重要で、その語り部となる贋医者役を浅野忠信が好演している。

もしも『密会』の映画化があったら馬医者も浅野忠信にやってほしいなと思った。

箱男役の永瀬正敏はスタイリッシュすぎたのかな?と思った。

贋医者と看護婦が何やらいかがわしいことをしているところを必死に鏡を使って覗くシーンはよかった。終始あのテンションでよかったんじゃないかと。

ラストの音楽はワーグナーじゃなくて「ショパン」が良かったかなとも思った。

でも全体的には、石井岳龍監督のオリジナルの演出かなと思ったシーンも家に帰って文庫本を開いてみると割と原作に忠実に撮っていたんだな、と気づいたり、段ボールの"ARGON"が安部公房の短編『魔法のチョーク』のアルゴン君からの引用なのかなとか、全体的に安部公房へのリスペクトを感じた。


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