小説ハイスクール物語 3 学園祭のロックコンサートと彼女との出逢い そして本当の自分の夢

僕は高校に入学すると軽音楽部に入りロックバンドでベースを弾いていた。ベースを選んだのは、
ポール マッカートニーがベースを弾きながら歌う姿に憧れていたからだ。
その年、軽音楽部に新入生が僕も含め5人入部した
みんなロックをやりたいと思っていて、ギター、
ドラム、キーボード、ボーカル希望がいて僕がベース希望だったので、ちょうど1つのロックバンドが出来上がった。
軽音楽部の伝統で、新入生は1年間、シタッパーズ
というバンド名を名乗らなければならなかった。
新入生は皆下っ端なのでシタッパーズだった。

放課後毎日、7月の学園祭に向けてバンドの練習をしていた。鉄男は時々顔を出し、たこ焼き等を差し入れしてくれた。
僕たちは憧れのレッド ツェッペリンの曲を練習していた。ところがある日、3年生の先輩が僕たちに、
1年坊にツェッペリンはまだ無理だ、パープルにしろと言ったので急遽変更になった。
僕たちシタッパーズは学園祭のロックコンサートで
先輩方のバンドの前座として出演することになっていた。
先輩方と話した結果、時間配分や曲の難易度から
僕たちが学園祭で演奏する曲は、
ディープ パープルの
Highway Star
Smoke On The Water
Burn
Black Night
の4曲に決まった。

学園祭の前日、お昼に学校前の原口商店でバンドのメンバーと待ち合わせをしたアドバイス、昼食用のカップ麺とパンを買った。
僕たちは毎日家から弁当を持って来ていたが、
ほぼ全員早弁していたので、お昼はいつも原口商店で買っていた。
原口商店でカップ麺のお湯を入れた後、みんなで
部室に持って行った。
みんな初めて人前で演奏することに緊張していた。
放課後の練習はその日中止にした。
練習するほど不安になったからだ。

学園祭当日
学園祭は土日2日かけて行われた。
僕たちのロックコンサートは初日にあった。
2日目のメインイベントはファイヤーストームだった。

土曜日の午後1時、僕たちは先輩方のバンドの前座としてステージに立った。
学校の講堂を使ってのステージだった。観客の人たちは他校からの見学の人も含めると5百人位いた。
僕たちは夢中で演奏した。
4曲20分のコンサートだったが、演奏時間は長く感じた。終了すると緊張が解け、全員楽器を持ったまま座り込んだ。

コンサートの会場では先輩方のロックバンドの演奏が始まった、そして爆音と歓声が上がった。
他のメンバーはまだ興奮していた。
ところが僕は何かが違うと感じていた。
自分が求めている世界、自分が目指している世界とは違うと。

4時になった。学園祭初日の最後のプログラム、
フォークダンスの時間が始まった。
僕たちの高校は男子校で女の子がいない。
学園祭を見に来てくれている他校の女の子を誘って踊らなくてはいけなかった。
1年生は必ず女の子を誘って踊るように、と先輩方から言われていた。
僕はコンサートの片付けをしていて少し遅れて
フォークダンスの会場のグランドに着いた。
既にフォークダンスの音楽が流れていて先輩方を始め踊っている人たちがいた。

同級生 宮坂
「鈴原、踊る相手、見つかったか? 俺、もう7人も断られたよ。」
そう言うと宮坂は近くにいた女の子のところに行った。

僕も女の子を誘わないと、と思って歩き出すと、
ポプラの樹のところにフォークダンスをひとりで見ている女の子がいた。
僕がその子の方に歩き出すと、その子が僕の方を見た。そして、そのままずっと僕を見ていた。
僕もその子を見つめたまま、その子のところに行った。

「1年の鈴原優雨樹と言います。僕と一緒にフォークダンスを踊ってもらえませんか?」
その子は僕を見つめたまま少しの間黙っていた、 
そして少し頬を赤くして、
「私で良かったら。」 
と言ってくれた。
そして恥ずかしそうに下を向いた。

その子の名前は竹田理美と言った。
近くのS女子高の1年生だった。
僕はその子と会場のグランドに向かって歩き始めた

同級生 細川
「鈴原、お前、踊る相手見つかったのかよ。
何て言って誘ったんだよ?」
僕がその子に言った通りに言うと、
「そんなにきちんと言わないといけないのか?」
「細川、お前、何て言ってるんだよ。」
「彼女、あちきと踊らない?」
「それ、浮浪雲の見すぎだよ。」
その子は僕の横で笑っていた。

その子とフォークダンスを踊り始めた。その子は
手を握るのではなく、最初は指の先の部分だけで
僕の指先と繋いでいた。
「竹田さんは部活は何をしてるの?」
「私、帰宅部です。」
「部活は何もしてないんだね。」
「私、得意なことないから。来週、私たちの高校の学園祭だけど、私はクラスの催し物の係りなの。」
「僕、日曜日に友だちとS女子高の学園祭を見に行くつもりなんだ。」
「よかった。私たちの高校も女子校だから1年生は学園祭を見に来てくれた男の人を誘ってフォークダンスを踊らなくてはいけないの。鈴原くん、私と
フォークダンス、踊ってくれる?」
「いいよ。」
「一緒に来てくれるお友だちは付き合っている女の子はいるの?」
「1番仲のいい友だちは鉄男と言うんだけど、興味ないって言うから、もうひとり仲のいい小松と一緒に行くんだけど、小松には彼女はいないよ。」
「小松くんに私の1番仲のいい友だちと踊ってもらうこと出来る?私の友だちもフォークダンスを踊る相手がいないの。」
「分かった。小松に頼んでおくよ。」

僕はその子の指を外し手を握ってみた。その子は
僕が握った手を握り返した。
曲が変わり、僕がその子の腕に僕の腕を接すると
その子は見を固くした。
フォークダンスの曲が1巡し、もう一度同じ曲が
かかると、今度はその子の方から腕を接して来た。

「鈴原くんがコンサートでベースを弾いてるのを
私、見ていたの。髪の毛を肩まで伸ばさないと、
ロックをやってはいけないの?」
「そんなことはないんだけど。」
「私、鈴原くんは短い髪の方が似合うと思う。」
「実は、ロックは止めようと思っているんだ。
自分には他に夢があることに気付いたんだ。」
「私たちの学園祭に来た時に、鈴原くんの夢、
教えてね。」

それから10分ほど踊っていると、フォークダンス終了のアナウンスがあった。

「鈴原くん、今度の日曜日、1時に私たちの学園祭に来れる?」
「1時だね。分かった。」
「1時に1年3組の教室に来て。私、そこで焼きそばとお好み焼きを作っているから。私が作る焼きそばとお好み焼き、食べてもらえる?」
「ありがとう。楽しみにしてる。」
その子は嬉しそうに微笑んで、待ってるね、と言って走って行った。

グランドを歩いているとスピーカーから先輩の声が聞こえた。
「踊れなかった1年坊はサッカーゴール前に集合」

踊れなかった1年生が30人くらいサッカーゴールに向かって走って行った。
そしてまた、スピーカーから先輩の声が聞こえた。
「踊れなかった1年坊は、校歌を歌いながらうさぎ跳び、グランド1周ー!始めー!」
30人くらいの1年生が校歌を歌いながら、うさぎ跳びを始めた。
ロックコンサートの興奮は頭のなかになかった。
竹田理美の花の様な良い匂いと気付いたばかりの
自分の本当の夢で頭がいっぱいだった。




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