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『ラウリ・クースクを探して』 宮内悠介 感想

宮内悠介さんの『ラウリ・クースクを探して』を読みました
かつてソビエト連邦の一地方であり、現在はIT技術の先進的な国家であるエストニアが舞台の物語です
プログラミングの世界に魅せられ、その分野に非凡な才能を見せる少年、ラウリ・クークスが、ソビエト連邦の崩壊と母国の独立の混乱期に、何を感じてどう生きていたのか? と取材をする記者の視点と、幼少期からのラウリを語る伝記のパートが交互に提示され
彼は、ラウリは、いまどこにいて何をしているのだろう? という切なる問いかけは、果たして明かされるのか…そんな物語です
ラウリの幼少期の頃のエピソードがすごく丹念に描かれていて、その視点の深い慈しみにあてられるように、ラウリを案じて愛おしく想うのが止められない、不思議な読み心地がありました
また、昔のファミコンやゲームボーイなどの少ない容量で工夫され作られていたゲームが好きな人間にとっては、ラウリが創造したゲームの素敵さが刺さります
レトロゲームが好きなひとには、是非とも読んでほしいです
そして何よりも、プログラミングだけが世界と繋がる手段であったラウリが、はじめて見いだした理解者、無二の親友であるイヴァンとの出会いのシーンの美しさときたら、ありませんでした
あの時、確かにふたりは…ふたりで宇宙を手にしていたのだと感じます

それを経て、2人がまた会えることはあるのだろうか? という部分この作品の重要な要素で、頼む…しんどいこと起きないで…2人でまたプログラミングして…と願うけど、そこには多くの事情と困難がありました
でも、この作品がなぜ『ラウリ・クークスを探して』というタイトルだったのかっていう理由が、あまりに美しいので、美しすぎたので! 
諸手をあげてオススメしたい、傑作なのでした




ネタバレのパート(閲覧注意)

(デリカシー無くネタバレの話をしています)
(作品に対するモヤモヤしたところというか、ほぼ難癖つける話もしています)


驚き嬉しいことに、この作品はBLでした!
ラウリがイヴァンを、イヴァンはラウリを
お互いのプログラミングを通じて無二の相手と思い定めていて、たくさんの文通を経て同じ学校にも行けて、同じ寮で夢中になって、たくさんたくさん話すところ…あの辺のエピソードは何度読んでも、出会えた喜びがほとばしっていて、めっちゃいいです
しかも、ラウリがイヴァンにラブレターを書いてしまう件も、供給が強くて狼狽しましたし
ラウリと同室の一年先輩が(ラブレターを見てしまって)これは渡さない方がいいよって優しく諭してくれるシーンも凄く好きです 優しい世界のBLです!
でも、どーしても我慢出来なくて結局、ラウリはイヴァンに渡してしまうんですよね~
その手紙へのイヴァンの返事も良かったです
そしてラウリの足跡を追う記者はイヴァンであったと分かる瞬間は、わりとほんとにびっくりしましたし、
ずっとイヴァンを忘れずにいたラウリに、イヴァンもラウリのこと探していたよ! 良かったねえ! と祝砲あげたい気持ちになりました

さて、
そんなこんなで読み終わりまして…ふと気になってきたことがあります
ラウリって酷い目に遇いそうな危機に晒されても、何やかんやで、避けられたり助け船が入ったりして無事でいることが多い気がして、なんか公式に守られ過ぎでは? って気分が沸き上がってきたのです
本文を読んでると、ラウリを慈しむ文章に共鳴してしまって、ラウリ! ラウリ! って、よしよししてあげたい気持ちが止まらんくなってたのですが
結末を見ると、ラウリの伝記はイヴァンとラウリの共著になったようなので、つまりずっとイヴァンがラウリをよしよしイチャイチャしてる文章やったということぉ!? という驚きがありまして
そいつはずいぶん、糖度高めですね! と、なんかちょっと、こんな言い方したらアレですが

自分は 両片想いが 好みです と

せっかくふたりが再会できたのに(自分が萌える方向と違ったなあ)って思ってしまったんです!
でもでも! 宮内悠介さんの文体がめっちゃ好きで、目を通すと脳が心地好く幸せになる文章だったので、そこが自分の好み過ぎたものですから(自分が萌える方向とは違った)などと、普段小説を読んでいて意識には上らない難癖をつけたというか、この小説が好きすぎて、自分に合わない部分がちょっとでも気になってしまったというか
とりあえず、BL嗜む友人には(事前情報は伏せて)こっそりオススメせねばなるまいよ! と決めた傑作なのでした
より良く刺さってしまうBL読み者のもとに、この作品が届くよう、こっそり暗躍したいと画策する次第であります



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