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夜の短編シリーズ

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夜の青春物語「カカオ60%の恋」

夜の青春物語「カカオ60%の恋」

「雨だ」

 そう言って彼が頭上を仰ぐと、淡いねずみ色をした雲間から、サアーッと雨粒が降ってきた。

「なにぼんやりしてるんだよ、行くぞ」

 彼は少し焦るように、制服の上着を脱ぎ、それを私の頭にかぶせた。あ、日なたの匂い―――気づいたとたん、ふいに自分の意志とは関係なしに顔が熱くなった。サッと下をむく私の手首を、いきなり、彼が強くつかんだ。そこから熱が直に伝わってきて、胸がドンと脈打った。

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夜の掌編「ルカの封印」

夜の掌編「ルカの封印」

 怪物と呼ばれ、石をぶつけられたルカはその夜、地面に穴を掘った。毛むくじゃらの両手が土をかきわけてゆく。その騒ぎに驚いた虫たちが、きゃあきゃあ悲鳴をあげながら、ルカの指先を逃れてゆく。

”ごめんなさい、もうバカにしないから”

 ルカにはそんな声が聞こえた気がした。けれども、どの虫が言ったのか分からない。

”ごめんなさい、潰さないで”

 生まれたときから心がないルカは首をかしげる。なぜ、あや

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夜のファンタジー「さよならレイチェル」

夜のファンタジー「さよならレイチェル」

 さよならレイチェル。

 ぼくらは君のことを忘れない。

 何日たっても、何年たっても、君のことを忘れたりなんかしない。

 絶対に絶対に。

      ◇

 空は、水に溶かした絵の具みたいに、透きとおった青色をしている。その中を飛んでいるのは、うろこ雲や、枯れ葉や、鳥たち。そしてたった今ぼくの手から離れていった、黄色い風船。どこまでも、どこまでも高く、のぼっていく。

「行っちゃったなあ」

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夜のミステリー「地獄送り」

夜のミステリー「地獄送り」

 雨がしとしと路面を濡らすせいか、足元から冷気が這いのぼってくる。とら吉はぶるっと身を震わせ天を仰いだ。でんでら雲の深いところで雷鳴が響くのを幾度も耳にしているが、閃光はまだずっと遠い。

 ふと、背後に気配が立った。とら吉はつい、鼻息を漏らした。目前に横たわる道路を、車がびゅうんと走り去る。

「今日はまた、ずいぶん粘りますねえ」

 またおまえか―――と、とら吉は心のなかで言った。

「そんな

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夜のミステリー「竜になった男」

夜のミステリー「竜になった男」

 同僚が「俺は竜になる、だから会社には行けない」というメールを自宅のパソコンに送りつけてきたその翌日、首を吊って死んだ。もともと口数が少なく、何を考えているのか読めない奴ではあったが、死ぬほどの悩みを抱えているようには見えなかった。仕事で大きなミスをしたことはあったが、上司にこってり絞られた後もどこか超然としていて、落ち込む様子はなかった。ねぎらいの言葉など要らぬという風情が、やけにさっぱりして見

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朝の童話「ファンの花」

朝の童話「ファンの花」

 ちっちゃい少女ファンは、ふしぎな力をもっている。たとえば、花に水やりをしたとき。まだ、つぼみどころか、茎さえ太く成長していなかったそれが、ファンによってジョーロの水を注がれたとたん、ぐんぐん大きくなって家の屋根を追いこし雲を突きぬけ、しまいには星の彼方まで見えなくなってしまった。

 ところでファンが人々に忌み嫌われているのは、性格が悪いせいでも口べたなせいでもなく、ただ「ツン」として見える美し

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