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夜の掌編「ルカの封印」

 怪物と呼ばれ、石をぶつけられたルカはその夜、地面に穴を掘った。毛むくじゃらの両手が土をかきわけてゆく。その騒ぎに驚いた虫たちが、きゃあきゃあ悲鳴をあげながら、ルカの指先を逃れてゆく。

”ごめんなさい、もうバカにしないから”

 ルカにはそんな声が聞こえた気がした。けれども、どの虫が言ったのか分からない。

”ごめんなさい、潰さないで”

 生まれたときから心がないルカは首をかしげる。なぜ、あやまるのだろうと。この様子を遠くから見ていた娘がいた。娘はそっと近づいて、ルカの真後ろに立った。気配に気づいたルカが振りかえると、娘は「ふふ」と笑い、ルカの堀った穴のなかへ飛び込んでしまった。

「あ、待って」

 ルカは自らも穴のなかへ飛び込んだ。穴はどこまでも深く、ルカはどこまでも落ちてゆく。

 やがて……真っ暗な空間が広がった。ルカはまだ落ち続けながら、ふいに自分のからだが、自分のものではない感覚に襲われた。あ―――これは誰だ、いまこうしている自分はいったい誰なんだ、どうしてぼくは、ぼくであるのだろう。

 気がつくと、ふっくらとした肉に包まれて、ルカは巨大な赤ん坊に変身を遂げていた。そこで小さくまるまり、かすかに遠く波の音を聞いた。ルカはもうすぐ完全にルカでなくなることを悟った。

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