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フマジメ早朝会議 ⒖求愛 連載恋愛小説

「ハイ、みなさーん。おうちに着くまでが遠足ですよー」
恭可は皆に声かけし、人海戦術でパパッと撤収作業。
「恭ちゃん、ここ継いでくれないか。広大と」
マスターは下戸なので、お酒はひとくちも飲んでいない。そもそも喫茶店ではアルコールを出せない。

「あ…いっすよ?」
ちょっと金遣いが荒いけど、交際費と思えば許容範囲ということで。
「趣味も合うし、断る理由とくにナシ」
「いやいや、断ってよ!」
焦ったのか、コーヒーをこぼしそうになる広大。
「じーちゃんも、いきなりなに言ってんだよ」

掃除をひととおり終え、心地良い疲労感に包まれる。パーティーの裏方だけで、まったり珈琲タイム。
恭可はとにかく食べることが大好きで、その流れで料理も好き。その食べっぷりと腕前を、マスターは高く買ってくれているらしい。

「こいつも恭ちゃんのこと憎からず思ってるみたいだし、こっちは老後の心配もなくなるしで、一石二鳥だろ?」
は?いやいや…と広大の狼狽ろうばいが可笑しい。
「でもマスター。この人、ほかに好きなコいるみたいなんですよー。だから、やっぱりわたしはお断りです」
そうなのか?とマスターは意外そう。

無言で席を移動し、広大の隣に陣取る苑乃子。もはや貫禄すら漂っている。
「いるんですか?だれ?」
ばっと両手を上げ、目を閉じる広大。椿野広大、野々村苑乃子に完全降伏…の瞬間であった。

「なんか面白いもん見た」
「そうですか?フツーですよ。マスターのナイスアシストでしたね」
チョコチップクッキーを軽快にかじる恭可を、数仁かずひさはもの珍しそうに見ている。
「フツーの基準が、あきらかに普通じゃないような…」
「これ、チョコがごろごろ入って、おいしー」
気の抜けた笑いかたをして「おつかれ」と数仁はコーヒーのおかわりを渡す。

マスターは、これまでどおり好きなようにやってください。最新の経営テクをお孫さんは頭に叩き込んでいるので、いざとなったら使える人材になっているはずです。
と、恭可はマスターのフォローも忘れなかった。

広大と共同経営者は、アウトドア用品を扱う会社を立ち上げた。グランピングができる施設もオープン予定。ロープでブレスレットづくりやソロキャンプ指導など、さまざまなワークショップを展開するそうだ。
災害時にも役立つ、設置しやすい簡易テントも開発。ただの焚き火好き・サバゲー狂いではなかったのである。

(つづく)
▷次回、第16回「消えた宝物にやさぐれる」の巻




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藤家 秋
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