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フマジメ早朝会議 ⒙ハチャメチャな朝 連載恋愛小説

前後不覚になって号泣し、抜け殻のようになってしまった。
恭可は数仁かずひさがなにを言ったのか、よく覚えていない。視界はぼうっとぼやけて、耳も脳も回路が遮断されたみたいだった。
唯一覚えているのは、その手が自分の髪をゆっくりとなでたこと。やさしく扱うべき大切なモノになれた気がして感極まり、またしても涙の波にさらわれたのだった。

メイクポーチの中身を床にぶちまけ、完全にフリーズする。大きな手でさっとかき集めると、恭可にポーチを持たせる数仁。
「ほら。起きろ」と鼻の頭をかじられた。
「…って、解凍のしかたおかしいから!」
ポーチを抱きしめ、恭可は警戒モード。
「遅刻するよ?」と相手はナゾの甘い表情。

「筋トレするとノルアドレナリンがドバッと出てやる気が出るんだけど、ジムより効果的かも」
後ろでごちゃごちゃ言っているが、焦るばかりでメイクがいっこうに終わらない。泣きすぎて目もとが乾燥し、化粧ノリが悪いのなんの。
「朝やってから社内コンペとか、さすがに経験な…」
恭可はふりかえって腕を伸ばし、無言で数仁のネクタイを締めあげた。
相手がベッドに腰かけているからこそ、難なく遂行できた技である。

「あ…これかわいい…」
表は濃紺の無地なのに、裏はシルバーとネイビーの水玉模様。見えない面のほうが派手という、ひねりの効いた小粋なデザインのタイ。
間近でしげしげ観察していると、あごをすくわれた。恭可はその手を払いのけ、ぴょんと後ろにさがった。
「キスし倒しましたが?」
「知りません。してません」

歩きづらいほどの感触が熱く残っているのを、なんとか意識から追い出そうとするもうまくいかない。
身支度がやっと整い、いくぶん落ち着いてきた。今日は、これからまともに働けるんだろうか。30分ほど熟睡したせいか、頭はすっきりしているけども。

(つづく)
▷次回、第19話「恋愛対象外」の巻


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藤家 秋
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