あすみ小学校ビレッジ ⒈なんでも屋さん 創作大賞2024応募作品 恋愛小説 全22話 目次
あらすじ
廃校跡地にできた、複合施設「あすみ小学校ビレッジ」
市職員の川久保泉は、御用聞きのような仕事をこなす。
機転が利くとの評判だが、自信のなさからがんばりすぎる傾向にある。
フィルムオフィス元代表の敏腕上司・千種。集団になじめない悩みを持つ小学生・善。団体の長を引き受けまくる、地元愛強めのオサム。70代で夢をかなえた駄菓子屋店主・瑠美。
個性豊かな面々が、あすみを盛り上げるため奮闘する。
滞在型プロジェクトの参加者・塩屋龍次。
ジオラマ作家として成功しているが、飾らない癒やしキャラで周囲と自然に交流する。
力を合わせて行事に取り組むうち、泉は龍次のおおらかさに急速に惹かれていく。が、彼の任期はわずか半年だった。
⒈なんでも屋さん
それは、とろとろの愛でできている。
あまりにやわらかくもろいので、爪楊枝なんかでは歯が立たない。
甘辛い香りに誘われかぶりつけば、だし汁たっぷりの生地が情熱的、かつやさしくお出迎え。食べごたえ抜群のタコさんが、こんにちは。
考えごとをしていた泉は、声をかけられたはずみでまるごと飲み込んでしまった。けっこうなサイズなので、窒息死するんじゃないかとわたわたする。
店長の瑠美が背中をさすってくれた。
「もー、集中して食べなっていつもゆってるのに~」
「舌やけどしました、また…」
アツアツのできたてたこ焼きを、駄菓子屋の店先で堪能する午後。
一応、仕事の一環である。
川久保泉は、明日海市観光局に勤めている。
といっても、市役所にはめったに行かず、地域交流施設を巡回するのが仕事だ。
少子化の影響で7年前に閉校したあすみ小学校。
その跡地にオープンした「あすみ小学校ビレッジ」の運営スタッフなのだ。
「で?どうだった?新しいひと」
ペットボトルの緑茶で落ち着いてから、泉はうーんと声をもらす。
「どうもつかみづらいというか、人見知りみたいだし…」
「芸術家って変わり者多そうだしねえ。大変だあね」
瑠美の眉は、同情するというよりは心底おもしろがっている。
ビレッジ内にできた宿泊施設に、県内外からのアーティストを招いて滞在してもらう事業。その責任者である上司の命で、泉は彼らが地域になじめるようサポートする係になっている。
「さすが、まちの萬屋さん・いづみや」
身のまわりのこまごまとした困りごとを聞く、なんでも屋扱いだ。
本格始動は来年度からで、パイロット版は2年めになる。
去年度の応募者は、繊細な鉄細工をつくる女性だった。
ガーデン柵に小鳥やカエルをほどこしたり、風にゆれる百合のモビールを生み出したり。あっけらかんとオープンな性格だったため、こう言ってはなんだが手がかからなかった。
もともと施設内に入るお店や事業者の調整をしていたので、泉のやることはさほど変わらない。
困るのは、内向的な性格を打破しようとあえて挑んできたケース。
審査にパスし契約を結ぶわけだから、少々のことでは途中脱落はムリだ。
ふたりめの人物は、そのテのひとでは…と泉はいぶかしんでいる。
(つづく)