ダイエットについて中編
後輩のぐりとぐら
身体に宿った肥満の悪魔を討ち滅ぼしたい。
そう胸に誓った私はまずジムという名の教会で洗礼を受ける事にした。
が、初心者の私には少しハードルが高すぎる。
一体何からすればいいんだ?
そんな私に筋肉の天使が舞い降りた。
良ければ僕らがレクチャーしますよ。
そんな頼もしい事を言ってくれたのは同じ職場の後輩二人。
いつもは礼儀を弁えつつパイセンの私を弄ってくる後輩の二人。
しかし連れられたジムであらわになったのは、最早凶器と言わんばかりのバッキバキの筋肉を二人は纏っていたのだ。
こいつらデトロイトメタルシティのぐりとぐらかな?せっかく教えてくれるところ悪いけど、そんな風に見えてしまった。
とりあえずこれからもこの二人には低姿勢でいよう・・・。
そんな情けない事を心の底で呟きつつ、体格がぐりとぐらの後輩に筋肉教の手ほどきを受けた。
筋肉教への信仰と疑問
そんなこんなで始めたジムでの筋トレ。
出張先でもトレーニング出来るよう全国展開しているジムに入会。
そこは月8,000円程のお布施が必要。
ちなみに私のお小遣いは月20,000円です。
嫁様に稟議を回したら却下されました。
・・・結構出費が痛いぞこれ。
それでも筋肉教に帰依した私はいつか肉体改造を果たして鋼の身体と精神に生まれ変わる事を信じて週一回は筋トレに勤しんでいた。
健全な精神は健全な肉体に宿る。
漫画『鋼の錬金術師』から学んだ言葉だ。
本当かどうかは未だに知らない。
幸い入会したジムは家から歩いて2分だが、出張先の同じ系列のジムはそういう訳にも行かない。時にはホテルの自転車を借りて30分程の事前運動してからジムで筋トレに勤しんでいた事もあった。
人生で運動らしい運動はあまりして来なかったが、無線イヤホンで自分の好きな音楽を聞きながら全力で身体をいじめ抜く行為に変な悦びを感じていた。
汗を流す心地よさと、こんなに汗を流している自分は今充実してるぜ!そんなイタイ感じで充実感に酔いしれていた。
ただ自分のトレーニング方法が悪かったせいか、回数が少なかったせいか、身体はそこまで変わらなかった。
あんなに汗をかいて、ヘトヘトに疲れて、次の日は全身筋肉痛で会社に向かったとしても、数ヶ月経っても体重はせいぜい2キロ痩せた程度。
ふと筋肉教に疑問を抱いた。
なんか思っていたのと違うやん。
ていうか、俺はゴリマッチョになりたいのではなくて、以前のスリムの身体になりたいのに何やってんの?
こんな事もよりもさぁ、もっと他にやる事あるんじゃない?
そんな考えが無意識のうちに脳内をよぎり、自然とジムから足が遠のいてしまったね
肥満の悪魔は静かに冷笑う
そしてやってきたのは、感染の悪魔コロナ。
取引先からは来るなと言われ、会社からも来るなと言われ、嫁子供は別に悪い事はしていないのに実家に帰らせて頂きますと言われ、いつの間にか実家に疎開していた。
感染の悪魔が詠唱した「自粛要請」という矛盾した言葉の能力により、自然とジムも退会してしまった。
毎日自転車で往復20分の会社通勤の運動すら禁じられ、独り在宅勤務でベッドに転がりながら会社PCとにらめっこする毎日を送っていた時には、筋肉教を棄教した私がそこにいた。
そして、いつの間にか体重は68kgになっていた。入社して10kg近く肥えていた。
これまでの努力はなんだったんだろうね。
ふと、筋肉教で得たものと失ったものと変わらないものを静かに内省した。
得たものは汗をかくことの気持ちよさと、
前世の私はきっとナマケモノだという自信。
失ったものは約2年間通ったジム代20万円程。あとその時間。
いつも変わらないもの。身体の贅肉
虚しくなって、ふと腹を見てみる。
そこには筋肉神からの贈り物であるシックスパックではなく、
三段腹で形成された2本線が私に対して密やかに冷笑した。
お前は昔も今もナマケモノだ、と。
出張に行かなくても、肥満の悪魔はそこにいたのだ。
ごめんなさい。まだ続きます。
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