『エーテル』が溢れる合唱曲:翼をください【アカペラ.ver】映画『リリイ・シュシュのすべて』より
この曲自体はもともとフォークソングバンド『赤い鳥』が発表した歌で、その後多くの人がカバーで歌ったり、音楽の教科書やエヴァ新劇場版でも扱われたくらい有名な歌。
私も小学校の時に転校する前にクラスメイトとの最後のお別れの時に、担任の先生の伴奏でみんなと一緒に歌った思い出がある。
そんな印象深い歌なのだが、この歌を私の中でより一層特別な感情を抱かせてしまったエピソードがある。
今でも私の心の奥底に強い影響を与えた岩井俊二監督映画『リリイ・シュシュのすべて』の中で、この歌のアカペラバージョンが合唱曲として歌われたからだ。
この合唱についての映画内の背景を解説をすると、中学校の合唱コンでピアノを弾く予定だった女の子が弾けなかったので、急遽代理で弾く事になった久野さん。
それに対して、面白くないと思ったスクールカースト上位の女子たち。
彼女達は結託して久野さんが合唱コンでピアノを弾く事に対して、元々の予定と違うだろとみんなの前で異議を唱え、挙句の果てに久野さんがこのままピアノを弾くことに抗議して、合唱練習をボイコットしてしまった。
このままでは合唱ができない。
そう思い久野さんは彼女達も合唱に参加出来るよう合唱曲『翼をください』をピアノ無しアカペラバージョンに編曲してしまう。
それで指揮者の佐々木君は彼女達に対して久野さんは本番でピアノは弾かないし、主旋律でもいいので歌って欲しいと懇願し、近くを通りがかった主人公も捕まえて一緒に頭を下げた。
結果、当日だけ彼女達も参加する事に。
合唱中ピアノを弾かずただ俯いて立ってるだけの久野さん。
それを横目に勝ち誇った顔をしている彼女達。
そして久野さんに恋心を抱きつつも、今の現状をどうする事もできずに、ただ一緒に歌っているだけの主人公の男の子。
この歌のサブタイトルには『エーテルの知恵』と銘打たれた程の、何層にも重なった美しい声と心に響くメロディ。
その裏に隠された、この映画に登場する中学生達の醜くドロドロとした人間模様とその苦悩。この映画の特徴を端的に表したシーンと言ってもいいくらいだ。
なのでこの映画は後味が悪く、気楽に観る事などとても出来ない。
観たあとは心が沈んでしまうか、何と表現したらいいのか分からない心境になるからだ。
嫁にこの映画を観せたら「もうこれ以上観たくない!」と言って、途中で逃げられた。
そりゃ、そうだよね。
この映画についてもレビューを書きたいけど、他にも書きたい事が多すぎていつになるやら。