見出し画像

お父さん、お父さん…

8月15日、退院準備が整った日

2023年8月15日。父が退院し、自宅療養へと移るための準備がすべて整いました。あとは翌日を待つだけでした。この頃だったでしょうか。父が「もう逝きたい」と口にするようになったのは…。

その言葉を聞いたとき、私はどう受け止めていいかわかりませんでした。もしかしたら、父には私たちには見えていない「何か」が見えていたのかもしれません。夢と現実の境目があいまいになりつつある中で、父はどんな思いでその言葉を口にしたのでしょうか。

「なに弱気なこと言ってるの!(笑)」
私は精一杯の明るさで父を励まそうとしました。でも、その裏では「その時」が近づいているのではないかという複雑な感情が渦巻いていました。「お父さん」という存在、「お父さん」という単語一つも、どれだけ私にとって大きなものであったか、大きなものか。その重みが私を飲み込むようでした。

夜中の連絡

その夜、母の携帯に病院からの連絡が入りました。嫌な予感がしました。ついにその時が来たのかと、胸が締めつけられるようでした。

末弟は東京におり、すぐに連絡しましたが、ちょうどお盆の時期。彼は「朝一番で向かう」と言ってくれました。そして私たちも朝一番で病院に駆けつけました。

病室に入ると、父は昨晩嘔吐してしまったらしく、意識はもうほとんどありませんでした。機械で補助されているのか、父の呼吸音だけが病室に響いていました。その音が切なく、重たく、胸に刺さりました。

「みんないるよ」

「お父さん、お父さん。」
「みんないるよ。弟も今向かっているからね。」

何度も何度も話しかけました。父から反応がなくても、繰り返し呼びかけ続けました。すると一度だけ、「弟がもうすぐ来るからね」と言ったときに、父がパッと目を見開いたのです。

きっと、弟に会いたかったんだよね。家族みんなで揃いたかったんだよね。

でも、弟が向かう途中で交通機関が遅延し、予定よりも到着が大幅に遅れてしまいました。もちろん誰のせいでもない。それでも「ごめんね」という気持ちがこみあげてきます。父に対しても、弟に対しても…。

「家族」って一人でも欠けたらだめなんだよ。

今思い返してみると、父にとって「家族」とは、一人でも欠けたらだめなものだったんだろうと思います。みんなで一緒にいること。それが父にとってどれだけ大切だったのかを、あのときの父の目を思い出すたびに感じます。父は弟を待ちたかった。みんな揃った家族の中で、最後の時間を迎えたかったのだと思います。

続く…

いいなと思ったら応援しよう!