読書感想 芥川龍之介 偸盗
芥川龍之介の中期の中編小説です。
私はとにかく晩年の作品が好きなのですが、この作品もわりと好きです。こちらは、芥川龍之介の作品の中でもなんとなく異色の存在感を放っているような気がします。(私の個人的な感想です)
何故そのように思うのかというと、
芥川龍之介は短編小説が多いなかこちらはそこそこの長さです。そしてストーリー性もちゃんとあります。何より大層な悪女が登場するのが珍しいです。
芥川龍之介はこの作品を一番の駄作だと言っていたようですね。なんでだろ??
かたぎの兄弟が窃盗団に入り、
そこの女頭、沙金(しゃきん)に兄弟揃って夢中になってしまう話です。
沙金は、目的の為ならば手段を選ばない、頭の切れるしたたかな女です。
「あの女ほど、醜い魂と、美しい肉体を持った人間はほかにはいない」
こんなことを男性から言わしめる女性です。
醜い魂を持っているとわかっていても、さらには目的の為ならば平気で他の男に肌を任せる女だとわかっていても、
それでも自分だけのものにしたいとこの兄弟は思ってしまうのですね。
この兄弟は、卑しい仕事に身をおとしてはいるものの、もとはかたぎの仕事をしていたので、心の中で激しい葛藤があるのですね。
というよりも、兄弟を大切にしたいと思う反面、沙金を自分だけのものにしたいという思いで揺れ動いてる感じです。
ストーリー性と個人の心理描写が両立していてすごく良い作品だと思うんだけどな。
私は、物語の随所で、言葉をかわさなくてもお互いの意志が伝わるみたいな表現があるのが好きです。これ、私の文章力では説明するのがとても難しいんですけども。
すじ書きが整っている物語にこういうのが出現すると、すごく心に残る感じがします。
「彼らは二人とも、そのにぎりあう手の内に、恐ろしい承諾の意を感じたのである」
とか。
(握り合う手の感触で、お互いの合意を感じ取った)
「太郎は、我を忘れて、叫びながら、険しく眉まゆをひそめて、弟を見た。次郎も片手に太刀たちをかざしながら、項うなじをそらせて、兄を見た。そうして刹那に二人とも、相手の瞳ひとみの奥にひそんでいる、恐ろしいものを感じ合った。が、それは、文字どおり刹那である」
とかね。
(ほんの一瞬お互いの目を見ただけて、お互いが抱える恐ろしいものの背景を読み取った)
ここだけ読むと、どういうこと??となるのですが、小説全体を通して読むと、すごくしっくりきます。
日常生活で色々な人と接する中、言葉を交わさずとも「感じ取れる確かな感覚」ってあるじゃないですか。それを芥川龍之介はうまい具合に表現するなあと思うのですね。
私の力不足でうまく説明できないんですけどね。
泥棒一味の物語なので、結構残虐な描写も出てきます。読むときは気をつけてくださいね。
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