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ハンバーガーにメキシカン!?老舗ふぐ料理店が斬新なメニューを開発するワケ

とらふぐ料理 玄品(以下、玄品)」では、てっちり(ふぐ鍋)・てっさ(ふぐ刺)など、日本伝承の味とも呼べるふぐ料理を提供しています。

ですが、これまでに玄品では、「敷居が高い」と思われがちな日本料理の常識を覆す、驚きの商品開発を行ってきました。たとえば、イタリアンと融合させたふぐのコース料理や、ふぐハンバーガーにふぐらぁ麺。なかでも斬新だったのは、ふぐを使ったメキシカンのコース料理です。

近年、業界のリーディングカンパニーとしてひた走る玄品ですが、なぜ異色とも思えるメニューの開発・販売を続けてきたのでしょうか。商品開発部の江崎 正樹(えざき まさき)さんに、商品開発業務の裏側や新メニューに込められた想いについて伺いました。

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[取材・執筆・校正]
株式会社ストーリーテラーズ ヤマダユミ

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コストカットや調理過程を想像し、新商品を開発

「玄品」は大阪と東京を中心に、国内外に約70店舗を展開しています。しかし、その拡大規模とは裏腹に、商品開発部のメンバーはわずか3人と少数精鋭。部門を統括している江崎さんは入社34年目の大ベテランで、「玄品」の店長・料理長を務めたのちに、商品開発に携わるようになりました。

商品開発部では、主に2つの業務を担当しています。一つは「新商品の開発」。もう一つは「既存商品のリニューアル」です。「新商品の開発」とは、文字通り0から新たなメニューを考えることです。一方で、「既存商品のリニューアル」は、お客様のニーズに合わせ、メニューの原材料や規格などを変更する業務を指します。

なかでも今回は、新商品の開発過程について、江崎さんに詳しく伺いました。

「まず商品開発のテーマが決まったら、メンバー全員でリサーチを始めます。参考になりそうな料理を食べに行って、アイディアを膨らませてから、試作を始めるんです」

江崎さんが行う試作は、塩・醤油などの調味料の選定から始まります。納得のいく調合ができたら、今度は素材と合わせてきれいに味がまとまるかどうか、確認するのです。

「調味料の組み合わせ段階では良くても、素材と合わせるとなんだか味が決まらないこともあって……」

途中で振り出しに戻ることはざらにある話で、試作の回数は両手では到底足りません。さらに、原材料費のコストカットやセントラルキッチンと店舗作業の住み分けなど、細部まで考えを巡らせながら作っているのだといいます。

社内承認を経て商品ができあがったら、次は全店舗に展開できるよう、調理マニュアル作りが始まります。このマニュアルが肝で、新人からベテランまで、誰が作っても同じ味になるよう作り込む必要があります。このとき、江崎さんは自身の現場経験を活かし、調理過程をイメージしながらマニュアルを作っていきます。

「たとえば、『塩1gを入れる』とすると、測るのが面倒でしょう?そんなときは、同じ塩分濃度になるよう塩水を使ったり、使う醤油を塩味の強いものに変えたりして、できるだけ手間を減らすようにしてるんですよ」

マニュアルが完成すると、最後の仕上げとして、店舗への調理指導を行います。全店舗からスタッフを集め、数日間かけて作り方を丁寧にレクチャーするのです。商品開発のスタートからここまでに要する時間は、約2〜3ヶ月。しかし、江崎さんの仕事はまだ終わりません。

実際に販売がスタートしたら店舗を視察し、「マニュアル通りに調理が行われているか・問題点はないか」を確認し、改善点があれば次の商品開発に活かす。そうして、絶え間なく続く商品開発業務に取り組んでいるのです。


バラエティ豊かなふぐ料理を楽しんでもらいたい

商品開発に携わるようになってからこれまで、江崎さんはふぐ料理店の固定概念を覆す、斬新なメニューをいくつも生み出してきました。

コロナ禍真っ只中の2021年。テイクアウト・デリバリー限定で販売されたのは、ファストフードの代表格であるハンバーガーでした。「若い人にもふぐを食べてもらいたい」という想いの元、天然のまふぐで作られたメニューの名前は、「ふぐの【女王】バーガー」。超豪華版のフィッシュバーガーでした。

「フィッシュバーガーといえばタルタルソースですけど、 普通のソースじゃ面白くないなと思って……。お客様に人気の、『玄品』オリジナルのポン酢をちょっと混ぜたんですよ。あれは美味しかったと思いますよ」

当時を振り返り、自信を感じさせる笑みを浮かべる江崎さん。2022年には人気ラーメン店「らぁ麺 飯田商店」とコラボレーションし、「ふぐらぁ麺」を開発。

翌年には同店と再度コラボレーションし、「ふぐメキシカンコース」を販売しました。メキシカンコースは独創的なアイディアで、「湯引きのユビーチェ」「てっさ・ムーチョ」など、ネーミングからして気になる料理ができ上がりました。

「試作の際、メキシカンでメジャーな食材を一通り買ってきて、一つひとつ味見することから始めたんですよ。使う食材自体が全然違いましたからね。それから、『メキシコ料理大全』という本を買って、一生懸命勉強しました(笑)」

ふぐ料理店にも関わらず、かけ離れたジャンルの商品開発にも、積極的にチャレンジしている江崎さん。なぜ、これまでにないような商品開発に取り組むのか伺うと、

「ふぐはポン酢で食べるのが一番おいしい。でも、新しい食べ方も提案していきたいんです。一般的なふぐ屋さんは、定番のコース料理しかないところも多いです。でも、バラエティ豊かなメニューを開発することで、『冬はてっちりを食べに行こう』『夏は限定メニューを食べに行こう』と何度も足を運んでもらえたら、うれしいじゃないですか

そう言って、頬を緩めました。


新商品の販売が始まると、各店舗の業務日報を通じて、江崎さんの元にお客様の声が届きます。

「新メニューを召し上がったお客様より、『おいしかった』とお褒めの言葉をいただきました!」

店舗スタッフの熱の込もった一文を目にする瞬間が、江崎さんのやりがいに繋がっています。


若い世代にもふぐ料理をメジャーに

江崎さんは、常に新たなふぐの食べ方を、模索し続けています。

「ふぐ料理に馴染みがあるのは、年齢層が高いお客様が多いです。でも、今後は若い人にも楽しんでもらえるよう、また新しいメニューを作っていきたいですね」

そんな江崎さんがつい最近取り組んでいたのが、鰻メニューのリニューアルです。

「鰻ね、もう今は食いたくないぐらいなんですよ。試作でずーっと食べてたから(笑)」

思わず苦笑いがこぼれる江崎さん。ですが、それだけたくさんの試作を繰り返しただけあって、リニューアル販売された鰻メニューはこれまで以上に上品かつ繊細な味わいに仕上がっています。次は一体どんな新しいメニューに出会えるのでしょうか。ぜひご期待ください!

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