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ちょうど400円、ポケットに入っていた。【社員食堂 一話完結】
作:谷口
ちょうど400円、ポケットに入っていた。
社員食堂の鳥からマヨ定食はジャスト400円。今一番食べたいのは間違いなくこいつだ。だが食後、必ず、間違いなく、絶対に甘いものが食べたくなる。お目当てのチョコレートは130円。欲を言えばコーヒーも飲みたい。プラス100円。昼休憩の後の5時間勤務を成し遂げるには、糖は必須だ。定食は諦めてコンビニの菓子パン、あるいはおにぎりにするべきか。しかし仮に菓子パン140円、チョコレート130円、コーヒー100円を買うとする。計370円。金は足りる。ここで「菓子パンで糖分は補えているのだからチョコレートは必要ないのでは?」という疑問が浮かぶ。しかし糖を欲するのはこの後の勤務中だ。今摂取したところで自ずと必要になる。ならば惣菜パンにすべきか。確かに今は肉肉しいものが食べたい。肉の挟まった惣菜パン160円。チョコレート130円。コーヒー100円。計390円。足りる。しかしこの華奢なコッペパンに切り分けられた唐揚げがたかだか2、3個挟まれているこのパンで食欲を満たせる気がしない。パンはただでさえ腹持ちが悪いのに。だとするとやはりおにぎりか。150円のおにぎり。チョコレート130円。コーヒー100円。計380円。これでいくか。でも待てよ、おにぎり1つでも足りる気がしない。自分で握ったものと違って、コンビニのおにぎりはかなり密度が薄い。クソ。コーヒーを諦めるか…。でもコーヒーを諦めたところで浮くのは100円。余っている20円をプラスして、買えるのは120円のおにぎりだが、140円以下のラインナップに食べたいおにぎりがない。腹を満たすために、コーヒーを我慢してまで食べたくもない味を買うのはなんだか癪に障る。クソ…。こうして悩んでいる間にも刻一刻と昼休みは削られていく。鳥からマヨ定食を食べきる時間などもうないかもしれない。クソすぎる。よし、ならばチョコレートを諦めよう。いつもはブラックだが、砂糖とミルクを入れて5時間勤務中ちまちまコーヒーを飲む。これだ。コーヒーも飲めるし糖分も補える。そして150円以上のおにぎりを2つ買う。どうだ、完璧だろ。そうと決まれば話は早い。熟成辛子明太子おにぎりと牛焼肉マヨおにぎりを手に取る。肉肉しさもクリアだ。あとはレジでコーヒーを頼むだけ。完璧だ。レジに並ぶ。ポケットから400円を出す。400円?100円玉が手のひらの上で重なる。一番下の100円玉がなんだか他より一回り小さく見える。重なりをほどいて手のひらへ広げる。穴の開いた銀色の硬貨が1枚、目に入る。脳内で、たしかに りん が鳴った。涙は出なかった。大人だから。
この日、私はことごとく毛嫌ってきた「電子決済」というものを初体験した。苛立ちと「ペイペイ♪」という耳障りな音への胸糞悪さで食欲はどこかへ消えていた。
おわり
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【社員食堂】は以上です!
いかがでしたでしょうか!今回はかなりライトな感じです。
ちなみに谷口はまだキャッシュレス決済未経験らしいです。笑
キャッシュレス決済をばんばん使用している小出からすると早く使えばいいのにと思ってしまいますが、きっかけがないと手をつけにくいものなのかもしれませんね!
谷口にも是非早く社員食堂に行って欲しいです。笑
次回からは3回に分けて小出の文章をお送りする予定です!
お楽しみに!