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【読書記録】『オウムアムアは地球人を見たか?』
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アヴィ・ロープ著 松井信彦訳
まず興味を惹かれる書影です。
動画でいうところのサムネの魅力は抜群。ではタイトルの「オウムアムア」とは何でしょうか。
時は2017年10月。ハワイ、マウイ島ハレアカラ山パンスターズ天文台にて、とある天体が発見されました。それは、地球から25後年の距離にあること座のベガ(おりひめ星)の方角から、太陽系の全惑星の公転軌道面を横切る形でやってきたと分かりました。つまり、太陽系の外からやってきた天体だったのです。太陽系外からの天体が観測された例は初。一躍世界中の天文学者から注目の的となりました。この天体はあっという間に太陽系を通過。観測できたたった11日間という束の間の時間に多くの波紋を呼ぶこととなりました。
公式名「11/2017 UI」と名付けられたその天体は、ハワイ語で「斥候」「偵察者」を意味する「オウムアムアOumuamua」と呼ばれる事となったのです。
2017年
9月6日 オウムアムア、太陽系に侵入。
9月9日 オウムアムア、太陽に最接近。以後は太陽系から離脱する動きに転じる。
9月29日 金星軌道距離を通過
10月7日 地球軌道距離を通過
10月19日 パンスターズ天文台でオウムアムア発見。以後11日間観測が行われる。
11月半ば オウムアムア、ペガスス座方面へ離脱。
オウムアムアは他の恒星系から漂ってきた、小惑星のような天体であるという見解となりました。
当時受験期だった私自身も、「太陽系外からの天体とか珍し!へー」と思っていたのをよく覚えてます。
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細長い「葉巻型」と形容される。
ところが著者アヴィ・ロープはこの推測に待ったをかけています。オウムアムアが太陽系外からの訪問者であることは間違いないのですが、単なる岩石天体ではないとの主張が本書に書かれています。
光の反射
たった11日間の観測で明らかになったオウムアムアの特異性がいくつか有ります。反射率はその一つです。
普通、自転によって太陽光を反射する面積は小天体の形ごとに違ってくるために増光減光を繰り返しますが、オウムアムアの変更幅は二等級に及んでいます。つまり、小さい天体にも関わらず角度による明るさの差異がデカすぎるということです。
一様な反射率を仮定すると、その形状は軸比が10:1に及ぶほど極めて細長いか、非常に扁平と推定されます。先の葉巻型の想像図は実際に可視光でそう観測されたわけではなく、反射率から想像でこのような細長い形だと推定されたからでした。太陽系の既知の天体では3:1止まりであることを考えると、得意な特徴だと言えるそうです。
推進
次の理由は不自然な加速です。
オウムアムアのスピードは凄まじいものでしたが、世界中の天文台がいくら観測しても、彗星のようなジェットの蒸発・放出活動はなかったのです。
著者はここに、太陽光を反射することで発生する推進力が関係していると推定。大胆にも、オウムアムアが恒星からの光を推進剤とする、異星文明による人工天体である可能性を提示したのです。
この部分は読んでいてとてもワクワクしました。
私がほーんと読んで、記憶の彼方に過ぎ去っていったネットニュースの記事が、異星文明とのファーストコンタクトの可能性があったなんて。
ですが、私が当時見た記事の記憶が忘却の彼方にあったようにらオウムアムアもまた太陽系から離れた彼方に飛び去っているのです。つまり、もう調べようがない。「あれ?てことはこの主張は推測でしかないよね?」と読んでいて思う場面もありました。
正直、推測を重ねるしかないので論理の飛躍もあると思ってしまいました。
が、著者が訴えるのは新しい視点で常に備えよ、ということです。もしまた第2、第3のオウムアムアが現れた時も、太陽系に侵入したずっと後に気づいて探査機を送ることも出来ない事態を繰り返すのか。異星からの重大な証拠物をみすみす逃さないように、という主張はよく理解できました。
そのために著者が提唱する「宇宙考古学」の概念は非常に面白いものです。通常宇宙考古学、とは人工衛星を使った測位システムで密林や砂漠などを調査して、新たな遺跡を発見するなどの試みを言います。エジプトのピラミッドやマヤ文明遺跡などはこの方法で新たな発見がありました。
しかし、ここで著者が提唱するのは全くの別物。異星人の文明遺構を見つけるために必要なのは電波か、廃棄物質か、光の組成か。ここらへんかなり面白いのでぜひ読んでみてほしいです。
また、イスラエル出身である著者のルーツや、ブラックホール研究の大家でもある経歴も外せません。この本は、著者の経歴と後書きまで読んで初めて完成するタイプの本です。
ぜひ手に取って読んでみてください。
また面白かった本があれば紹介しようと思います。では!