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【映画感想】今週観た映画3本 シビル・ウォー、ルックバック…

 先日、めでたく転職活動から足を洗うことが出来ました。
過酷な日々でしたが、終わってしまえば解放感を味わう暇もなく、次の新生活に向けて忙しい日々が続いています。しかし前から決めていたのは、自分への労いとして「寝かせておいた映画」の栓を開けること。映画館に足を運ぶのを躊躇していたり、願掛けとして観ないでおいた映画3本を観賞することにしました。
※配信状況は2024年12月現在です。


1.『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(アメリカ・2024)

権威主義的な大統領に反発し、連邦政府から19の州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアが「西部同盟(WF)」を結び、政府軍との間で激しい武力衝突が繰り広げられていく。就任3期目に突入する権威的な大統領の政権は陥落寸前。そんな歴史的状況を目撃する為にNYの4人のジャーナリストがホワイトハウスへ。しかしその旅路は徐々に内戦の狂気に呑まれていき……。

何と言っても凄まじい没入感です。内戦が勃発したアメリカという一見荒唐無稽ながら、冒頭の水も飲めない市民のデモや戦闘シーンなど悲惨な圧倒的な現実が設定のリアリティと説得力を作っています。そして和やかな場面と無機質に暴力が振るわれる場面の緩急。流血・発砲場面で調子ハズレの70’ポップを持ってくる音楽の演出が不気味で素晴らしい。最初は劇場で観なかったことを後悔しましたが、最後の市街戦のシーンの大迫力を観るとこれを劇場スピーカーの大音響で聴くと主人公たちの様に戦場の恐怖が大きすぎてしまうなと感じたくらいでした。そして主人公の最後の覚醒。異様な高揚とジャーナリストという仕事の業が感じられ、一応の成長譚・ハッピーエンドの体がありつつもその先の世界を思うと絶望感しかない。そんなラストが良かったです。
そして話題の赤メガネ。かなり……怖かったです。

「What kind of American are you?
(お前はどんな種類のアメリカ人だ?)」

配信状況
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2.『ルックバック』(日本・2024)

学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の少女・藤野。クラスメートから絶賛され、自分の画力に絶対の自信を持つ藤野だったが、ある日の学年新聞に初めて掲載された不登校の同級生・京本の4コマ漫画を目にし、その画力の高さに驚愕する。脇目も振らずにひたすら漫画に打ち込む日々、そして出会い。漫画へのひたむきな思いを通して、京本と藤野は魂をぶつけ合いぶつかり合っていく。

アニメ化の記憶も新しい『チェーンソーマン』作者・藤本タツキ先生の読み切り漫画が原作。本作がコロナ禍の2021年にジャンプ+で公開されるやクリエイターを中心に大きな反響を産んだ。終盤のシーン改変を巡る騒動も含めで大きな社会現象となった。


Twitterで本作に感動しリツイートした1人として、本作の映画化決定から大変楽しみにしていました。アニメ化された事で、藤野を取り巻く舞台、とりわけ山形の踏みしめる雪の固さと深さ、雪が溶けた道路の水っぽいバシャバシャした音の演出が原風景としての説得力が強くなっていて良かったです。藤野が自分より上手い絵に打ちのめされて必死に食らいつこうと絵の勉強するシーン、京本と一緒に夢を追いかけるシーン、ここら辺が自分の経験と重なって泣いてしまいました。しかし、どのシーンで泣いた、というのもまた違う気がします。胸がザワザワして熱くなり、掻き立てられる様な気持ちになって落涙する。音楽か、個々のシーンかではなく理由のわからない涙、です。やはりワナビー経験のある方にはかなり刺さります。が、一方で完全に没入できない自分にも気づいてしまうのです。情熱に応えられない自分、まっすぐに目標だけを見られない自分。そうした疎外感が老いか感性の劣化かは知りませんが、自分の内面がわかる映画だからなのかもしれません。

やはりラストの藤野と京本の対話が完成するのが良い。プライドの高い藤野と口下手な京本。すれ違ってばかりの2人の会話も、実は漫画に一緒に向き合うかけがえのない日々の中で心が通い合っていたとわかるのが、終盤でまた泣いた原因。

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3.『ヒトラーのための虐殺会議』(ドイツ・2022)

第二次世界大戦中、独ソ戦が激しさを増していく1942年1月20日。ドイツ・ベルリンのヴァンゼー湖畔である会議が開催される。それはヨーロッパ全土にいる1100万人ものユダヤ人の絶滅政策を実行するための具体的な計画を話し合うというものだった。ナチス・ドイツの狂気的な犯罪の全容を、2時間半の全編会議シーンで描き出す。

本作の原題『Die Wannseekonferenz』はそのままヴァンゼー会議を意味します。ヴァンゼー会議とは、ナチス親衛隊大将ラインハルト・ハイドリヒらが中心となり、ユダヤ人問題の「最終的解決」つまり虐殺による完全な絶滅を決定した歴史的な会議です。本作には派手な戦闘シーンは皆無。ヒトラーも登場しません。それどころか2時間半は全編会議室の場面。単調でつまらない?
ええ。私も途中で寝てしまいました。

しかし、そんな退屈な会議の中で話し合われ続けるのは「虐殺すべきユダヤ人はどの地域に何人いるのか」「どう移送させるのか」「それは内務省の管轄か外務省か」「この地域では何万人のユダヤ人を殺害し既に目標達成です。おめでとう」といった内容なのです。
あくまで無機質に仕事として、どの役所の管轄かを争い、効率よく目標を達成する為、作業が負担にならない為に、殺人の為の会議をする。そんな狂ったシチュエーションこそが、ナチズムの比類なき残虐性を効果的に暴いています。

本作の描写がどこまで正しいかはわかりませんが、印象的だったのはアイヒマンの動き。アドルフ・アイヒマンは戦後の裁判で「自分は上からの指令に従っただけ」という主張を展開し、自身の責任を否定した人物です。そんな彼が本作では優秀な官僚としてかなり主体的に動いている様子が描かれていました。ナチズムの犯罪。そしてその犯罪に立ち会った時の個人の責任、そうした問題について深く考えられる良い作品です。

劇中のアドルフ・アイヒマン
国家保安本部ゲシュタポ局ユダヤ人課課長/親衛隊中佐
1961年 裁判でのアイヒマン


配信状況
Amazonプライムビデオ、U-NEXT、Hulu、FOD



簡潔ではありますが、また映画や本のレビューを公開したいと思います。
では!

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