【未来予想】200年後の太陽系経済圏②太陽近縁天体 【無害な空想】
23世紀の未来予想、今回は太陽・水星・金星・小惑星帯です。
太陽
かつて20世紀の科学者ニコライ・カルダシェフは、人類文明をそのエネルギー消費量によって発展段階を分けた。(カルダシェフスケール)
その指標によれば、2210年現在の文明レベルはタイプ1.3であると考えられる。(産業革命時はタイプ0、情報革命時の21世紀初頭はタイプ0.7相当)
「惑星全体のエネルギーを利用・制御できる惑星文明」であるタイプ1には達したとされるが、
「母星の恒星エネルギーを全て利用できる恒星文明」のタイプ2のレベルには達していないとされる。
現在、太陽周辺に数十~数百m規模の反射板を備えた人工天体を数万基設置する「プロメテウス計画」が進行している。「ダイソン球」の初期段階であるが、日照量の低下を懸念する声がある。例えば「ヘリオス1」で主要電力を賄っているアジア、北米・アフリカの先進各国国民、農業関係者である。
しかし、プロメテウス計画関係者は
「反射板で遮られる日光はごくわずか0.0001%であり地球や第3惑星経済圏(TPEZ)への大きな影響はない。むしろ、太陽の全エネルギーに比べて、点のような惑星しか受け取れず殆ど霧散してしまうエネルギーを活用できるメリットは大きい。」
と主張している。
ただし139万㎞離れた太陽から、発電した電気をマイクロ波送信することは難しい。超電導リングを用いた物理的な送電も検討されているが、実用化・経済化の目途は立っていない。
太陽フレアの脅威・宇宙紫外線の健康被害
2048年には急激な太陽活動の活発化で巨大太陽フレアが発生。
当時のインターネットや送電網を約2年にわたって寸断する大事件が発生した。大規模なインターネットの崩壊は20世紀末からのインターネット遺産を含む全情報のオリジナル40%を消滅させた。
特に萌芽となっていた精神のネット転送技術開発が大打撃を受け、10年開発が遅れたとされている。
こうした教訓から、21世紀後半には太陽フレアの予防体制の構築が進んだ。
「太陽周回観測”人工惑星”あめのうずめ」は、精密な太陽観測によって極小黒点の発生頻度からフレアの発生を予測している。
また、発生源となる太陽に蓄積された膨大な磁気エネルギーを、逆磁場の生成によって打ち消し合い太陽フレアを未然に防ぐという予防策も研究されている。
太陽フレアによって強烈に放出される宇宙放射線は、平時であっても大きな健康上の被害を生む。
世界保健機関WHOが磁気嵐発生の際に定めた退避行動は、宇宙船や施設内であれば300L以上の液体で覆われた遮蔽空間に1時間程度、と定められている。船外活動中であれば、ただちに最寄りの緊急遮蔽室への避難が推奨される。これに沿って日本の労働基準法では、宇宙事業者に遮蔽室の設置義務がなされている。
だが長い宇宙生活で放射線障害を患うケースも多い。
サナトリウム入院の後、人工臓器かアンドロイド義体への肉体改造で治療することが一般的である。
危険な船外労働の場合、WEES経済圏やTPEZでは機械、人型アンドロイドや、全身の80%以上を義体に改造した人間が行うことが普通だ。
しかし、火星・木星・小惑星帯・水星・金星の劣悪な労働環境と低賃金労働では、非改造肉体労働者を危険な放射線下で働かせるケースも報告されている。
水星
水星はヘリウム3採掘や、鉄やニッケルなどの鉱石採掘、日光が当たらない「万年影」に存在する水の氷の採掘産業がある。
その拠点は高温を避けるため、万年影と日が当たる場所の間にある南極と北極のごく僅かなポイントに密集して置かれている。
定住する住民は1000人程度。地球から向かうには一度月を経由する必要がある。過酷な環境のため労働は自動化と義体化が進んでいるが、2178年には危険労働が明らかとなり問題になった。
中国系の住民が多く、最大の都市は太阳莞市。独立国家は存在しない。
21世紀初頭の平面アニメ映像作品にちなんで、「実物大ガンダム・エアリアル像」が水星のミケランジェロクレーターに個人建造された。
金星
金星はその過酷な環境から表面への入植は困難である。
二酸化炭素が凝結するほどの低温低圧である大気上層部には、無人の学術探査拠点「アレクサンドリア4」が浮かび、金星表面に定期的に無人機を送り込んでいる。
金星経済の中心は、その大気中の大量の二酸化炭素を用いたドライアイス製氷産業と、巨大化学プラント産業である。
ポーランド発祥の大手宇宙化学メーカー「アストロケミカ」が、金星軌道上にスペースコロニー「ヴィーナスの商人」を建造。
人口17万人は全てアストロケミカ社の社員とその家族で構成されており、
「最も高貴なる宵の明星共和国」はアストロケミカ社の企業国家であり事実上の国家元首は代表取締役社長である。
1万を超える子会社が国内に存在。警察・インフラ網は国民社員への福利厚生であるが、非アストロケミカ系列社員の国民には大きな税負担がある。
同社は後述の金星テラフォーミング事業にも出資している。
兵器実験場としての金星
現在の金星の経済的利用価値は低く、居住者もいないため大型粒子兵器や星間弾道弾などの軍事実験に利用される場合がある。
「改訂宇宙条約」で宇宙の軍事利用についての全面禁止は緩和されたが、
通常の核兵器以外にも、反物質兵器の実験が行われるなど危険性が各国から非難されている。
金星のテラフォーミング計画
金星には大気中も含め生命体は存在しない。よって火星と違い環境破壊を危惧する声はほぼ無く、金星テラフォーミングは熱い視線を注がれている。
現在は大気中での藻類の繁殖実験が繰り返されているが長期生存例は確認されていない。金星テラフォーミングの大きな課題は、400日以上かかる遅い自転、分厚い二酸化炭素の雲、それによる表面温度500℃の強烈な環境である。これらに阻まれて実効的な環境改造はまだ進んでいない。
しかし大規模過冷却によるドライアイス凝固が実現されたり、
小惑星帯鉱業会社「アステロイド・ドワーフ」が協力する、RB-VTY483彗星や小惑星65シベーレ等の水を含んだ天体の誘導衝突が今後も継続的に行われれば大気の問題はある程度解決すると予想されている。
金星は地球と重力がほぼ同じため、テラフォーミング後には火星を超える有望な植民先として期待されている。
環境改造完了までおよそ400年程度必要とされているが、イシュタル大陸の土地の開発権が入札にかけられたりと盛んに投機対象となっている。
小惑星帯
大小様々な小惑星がある火星と木星の間の小惑星帯は、
大きさ1Km以上の天体が190万個、1km未満の天体は700万個以上とされている。
組成も起源も様々である小惑星は、資源も豊富であり一例でも、
鉄・ニッケル・コバルト・プラチナ・パラジウム・水・建築用シリケート鉱物が挙げられる。
小規模な採掘企業を含めると約3万社・個人採掘主を含めると数百万人を数える。しかし各小惑星の距離は遠く採掘自体も当たりはずれが大きいためこの22世紀初頭からの「アステロイド・ゴールドラッシュ」は成功を夢見て失敗し困窮した者も多かった。地球圏への帰国が叶わなかったり、そもそも義体化や自動採掘機を用いる金銭がないため生産性が低く債務不履行で強制労働に陥るケースもあった。
むしろ、採掘者や採掘会社に対して低コストな化学燃料ロケットを売りつけたことに始まる「フローレス・アネンドラ社」が大発展するなど、付属産業が盛り上がっている。
低重力下での採掘ローバー開発や、制御システムが簡素化され安価な合金と量子プリンターで量産された「大衆宇宙船バニーマミー」は年間10万基を売り上げる大ヒット商品となった。
火星から小惑星帯にかけての地域は「中深度太陽系経済圏(MDSSE)」と呼称されている。
小惑星帯の国家と海賊
小惑星帯には10の独立国家が存在する。
最大都市は小惑星ケレスに存在し、採掘業者の拠点や一時精錬、火星や地球圏への輸送が行われている。
22世紀後半、小惑星の破片を地球に質量兵器として投下することを目論んだテロリストが検挙されたり、中深度太陽系商業航行を行う貨物宇宙船に対しての「海賊行為」が問題となっている。
2207年にはケレス共和国・クロコダイル共和国・マッサリア王国の3つの小惑星国家と、メキシコ・アメリカ・中華連邦共和国・イヴローパルーシ共和国・日本・韓国・アンゴラ・エチオピアによる、多国籍軍が派遣され、宇宙海賊に対する掃討作戦を行っている。2210年現在ケレスに多国籍軍司令部を設置し、監視に当たっている。
だが積極的に宇宙海賊を歓迎する小惑星国家も存在する。
「小惑星1998QA56」(自称バッカニア)に潜伏する武装組織は、闇取引や大企業の積荷を襲撃する宇宙海賊を積極的に雇用。バッカニア共和国を名乗っている。何度か小規模な制圧作戦があったものの現在も平定には至っていない。
ちなみにマッサリア王国は小惑星帯唯一の君主制国家である。
宇宙国家のほとんどが共和制国家だが、伝統や歴史の浅い各国で統合のシンボルを作るために意図的な復古調の君主制を導入するケースも僅かながらある。
小惑星マッサリアの場合は、入植者の中に21世紀末のノルウェー国王エイリーク4世の子孫なる人物がいることがわかり、面白がった仲間が「マッサリア国王」の戴冠式なるものを挙行し、「ペーター1世」を称した。独立後の国民投票でこれが追認されたもの。マッサリア王国は人口600人の国連加盟国であり、現国王は第3代エリオット2世・ガルシア=グリュックスブルクである。
太陽系内交通網について
地球から広域地球軌道経済圏WEESに移動する場合は、地球都市に備え付けられた宇宙港のスペースプレーンがあるが、多くは軌道エレベーターからの移動が一般的である。三本の軌道エレベーターを合計すると、年間移動人数はのべ2億3000万人にも及ぶ。
そこから月世界に移動する場合は、第1ステーションからの化学燃料ロケットのシャトル便を利用する。
主要な宇宙旅客企業は大手の「ドラゴン・スターライン」「超开心好好航天」「オリーシャ・エシュ航天」、
貨物輸送では「メセケテット」「アマゾン・トランジェット」
「ナヴィス・アストラ」等の企業が主流である。
これらの会社はイオンエンジンや核融合炉エンジンを持つ中~大規模宇宙船を多数保有し、月ー地球軌道圏の間では日夜数万隻の宇宙船が行きかっている。
中深度太陽系経済圏MDSSEや金星経済圏に向けての旅客便の数はあまり多くない。
あまりに遠方の観光需要であれば、量子転送によって観光客の思念体を現地アバターに移すことが主流だからである。
労働者層を派遣するための旅客機は数か月に一往復といった本数が平均的である。
木星より遠い深度太陽系や太陽系外を目指す宇宙船の場合、核パルスエンジンを用いた巨大な星間航行船や光速の10分の1までの加速を目指した亜光速エンジンが搭載される。これらは月や軌道エレベーター上で主に建造される。
しかし、遠方への宇宙探査に実態機体を伴って派遣する場合はサンプルリターンなど稀であり、多くは恒星からの自然光とプラズマを推進力にする「太陽帆」によって地球から転送した思念体を、依り代探査機に憑依させて
「バーチャル・サイコキネシス探査」を行うのが主流である。
総合すると、第3惑星経済圏TPEZや小惑星帯での旅客・交通網には新規参入の余地が多いが、それ以外の惑星間長距離航行となると大資本を持つ企業の寡占状態にあるという状況である。
次回は、木星~冥王星までの天体を扱う予定です。
(続)
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