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中国古典から、「振り返り(リフレクション)の大きな力」

中国古典から、「自分を知る、自分を動かす、人を動かす」を学ぶシリーズ第5弾。師走、1年の締めくくりの季節ですので、今回は「振り返り(リフレクション)」をテーマに中国古典を題材に書きます。

曾子(そうし)曰わく、吾(われ)日に吾が身を三省(さんせい)す。人の為に謀りて忠ならざるか。朋友と交りて信ならざるか。習わざるを伝えしか、と。

「論語」学而第一

曾子は孔子の高弟です。孔子亡き後学び舎を主宰し、お弟子さんは3千人もいたそうです。その名のひとりが子思(しし:孔子の孫)、その子思のお弟子に孟子がいます。なので、その後の歴史の中で儒教を学ぶことができているのは、実は曾子のお陰と言ってもいいのかもしれません。

訳してみます。曾先生がおっしゃっていました。私は日に三度、自分の言動を振り返ると。
 ①人の為と思って真心を込めて行動できたか?
 ②友達との関わりの中で誠実な態度だっただろうか?
 ③自分ができもしないことを伝えなかっただろうか?

「省」という字は何に見えますか?

「省みる」ことが重要だということを言っています。耳が痛いです。古典は耳が痛い。「省」の甲骨文字は以下の通りです。みなさん、何に見えますか?

 

目の上の眉に飾りを加えた形と言われています。目の呪力(おまじないの力)を強めるために眉飾りを行い、その呪力を持った目で見回ることを意味しています。見えないものを見るために、よくよく観察することを指しています。

振り返り(リフレクション)の効果とは?

省みる、振り返る効果は何でしょうか? 経営学の知見から言えば、経験から学ぶためです。
コルブの経験学習モデルが有名です。大人の学びのメカニズムを説明しています。
 ①大人は経験を通して学んでいる。
 ②しかし、経験するから成長するのではない。経験を振り返り言葉にすることを通して成長している。

振り返ること(内省)と言葉にすること(概念化)が、大人の学び・成長のポイントだということです。

 

振り返り(リフレクション)の3つの問い

では、振り返りをどのようにおこなったらいいのか? 正解があるわけではありません。皆さんそれぞれの自問自答のやり方があります。ここでは、オーソドックスな3つの問いをあげます。
 ① 何をして、どうだったのか?(事実の確認)
 ② そこから何に気づき、何を学んだのか?(教訓の言語化)
 ③ で、次どうするのか?(次の行動の設定)

振り返り(リフレクション)の達人

仕事で知り合う方々には、振り返り(リフレクション)の達人とも言える方が何人かいます。そのおひとりの方の実践を紹介します。

その方は毎日、会社帰りにその日の言動を振り返ってノートにメモ書きします。平均すると5行程度だそうです。そして、大晦日に総決算として、そのノートを眺めながら1年間を振り返るそうです。毎年家族を実家の福岡に先に返し、大晦日は一人で過ごし、年が明けてから家族と合流するそうです。ある時そのノートを見せていただいたことがあります。小さめの大学ノートにびっしり書かれていました。20代の後半から約20年間続けているそうです。その方は、昨年40代半ばでグループ会社の社長に就任されました。振り返りの習慣を続けていることに脱帽します。私にはこういう習慣がまったくありません・・・。

この実践は経営学の知見とも符合します。①行動の中に振り返りの習慣を入れている(日々の内省)、②行動の後に振り返りをおこなっている(区切りの内省)、この2つが有効だということです。

理論的にも、実践的にも、そして、2,500年前の言葉からも、振り返り(リフレクション)には大きな力があるのは間違いありません。

参考資料:
吉田賢抗『論語』明治書院, 1976
白川静『常用字解[第二版]』平凡社, 2012


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