子どもの頃の夢
子ども頃「大きくなったら何になりたい?」と聞かれた時は、かなりの勇気をかき集めて「小説家になりたい」と答えていた。
確か小学生低学年の年齢だったと思う。
両親が共稼ぎで7歳年が離れた姉は部活動などで帰宅が遅く、鍵っ子だった私は母が仕事から帰ってくるまでの時間、学校の図書館から借りて帰った児童書を読んで過ごしていた。
今でもそうだけど、一人で過ごす時間を寂しいと思ったことはなく、幼かった当時の私は、有名人の伝記やアンデルセンなどの童話を読んでる時間がとても心地良かった。
急いで帰ってきて、座ることなく台所に立って夕飯の支度をする母の後姿に向かって、その日一日の学校での出来事や本の感想を一方的に話をするのだけど、そんな戯言に母は絶妙なタイミングで相づちを打ってくれた。
多分、母は私の話などは右から左に聞き流していたと思うのだけど(笑)
そんな生活の中で、一時でも至福の時間をもたらせてくれる本は、私にとって無くてはならないアイテムになっていた。
だから自然とそんな本を書く職業である小説家になりたいと密かに思うようになっていたのだと思う。
その幼い夢は結局果たされることはなかったけど、今でも色んなジャンルの本に囲まれた生活には変わりない。
長男から本棚が足りないからと、iPadを勧められたことがあったけど、幼い頃の記憶は本の手触りや匂いも私の体に染みついている。
物語の先が早く知りたくて、急いて捲るページの感触。
心に残った言葉のページには角を折って目印にしたり、感想を書き込んだり。
プレシニアに差し掛かり、半世紀以上も生きてきた訳だけど(笑)
パソコンやスマホに悪戦苦闘しながらも、こうして日々の出来事を文字にしている時間は、幼い頃の私が至福に感じていた時間と似ている。
多分明日も明後日も、手放すことなんてできない私だけの至福な時。
子どもの頃の夢は叶わなかったけど、きっと今の私がしているようなことを味わってみたかったんだと思う。