記事一覧
『Still Wakes the Deep』 ウォーキングシミュレーターとの断絶と接合点
『Still Wakes the Deep』は1970年代スコットランドのオイルリグを舞台とした作品。『Dear Esther』をもってウォーキングシミュレーターの始祖とされるThe Chinese Roomが手掛けるホラーゲームだ。
本稿では『Still Wakes the Deep』をウォーキングシミュレーターの系譜にあるものと捉えることを試みる。The Chinese Roomは(その意図
「これはゲームじゃないんだ」というセリフに見るビデオゲーム理解とその更新
「これはゲームじゃないんだ」
具体的な作品名を思い浮かべることがかえって困難なほど耳馴染みのあるこのセリフから想起されるシチュエーションは、つまるところ「命の大切さ」を説くものに他ならないだろう。現実の命にはセーブ機能も復活も存在しない。だからこそ命を大切にするべきだ、という主張だ。
このことは逆説的に、ビデオゲームにおける命の粗末さを論じているという事もできる。
この記事では現実世界におけ
『No one lives under the lighthouse』のストーリーと聖書
2024年4月22日に発売から4年越しに『No one lives under the lighthouse Director's cut』に拙訳で日本語が追加されました。メディア様に記事にしていただいたり、フォロワー様に拡散していただいたことで、想像以上に情報がいきわたりました。
そんな中実際にプレイしていただいた方から「ストーリーが難しい」という声も聞いています。そこでこの記事では『No o
Unreal Engine製ゲームの有志翻訳情報・リンク集・忘備録
↓Unity版
例に漏れず素人がかき集めた情報なのでご留意ください。またより良い情報がある場合は教えていただけると非常に助かります。
ゲームエンジンの確認最初に翻訳したいゲームがUnreal Engineで作られているのか、ということを確認したい。ここでUnity製だったりするとこれ以降の説明はすべて意味をなさなくなってしまう。またこの記事では基本的にUE4以降のバージョンを想定している。
Unity製ゲームの有志翻訳情報・リンク集・忘備録
↓Unreal Engine版
まず最初に断っておきたいのは私は有志翻訳を初めて3日目くらいの、特に技術系の知識のない人間だということです。ここに集められた知識は未来のアップデート、あるいは改善を待つ偏った知識です。
それでもここに情報を残すのは私が有志翻訳をノリで初めるにあたって、散在する情報を集めるのに本当に苦労したからです。知識を求めてこの文章に辿り着いたあなたは時空上のズレはあるものの
技術の進歩と世界の意味:『DEATH STRANDING』における総資源化の問題
『DEATH STRANDING』のプレイを開始して3時間ほど経つころ自分の中で「この作品は語るに値するものだ」という確信が湧いてきた。例えばそれは初めてのBTとの接触の場面で感じられた。
死の不連続性BTは基本的に目に見えない敵対勢力であり、それらを探知するBBの力がありながらも最初のうちはBTを上手く避けることはできない。BTとの最初の接触は私にとって不可避の失敗との出会いでもあった。
こ
拒絶のアンチビジュアルノベル 『Class of ‘09』
現代のビジュアルノベルは、どの作品もそれぞれの意味でアンチビジュアルノベルと言う事ができる。長時間プレイを求められない、美少女とデートしない、ミニゲームによる操作可能性がある、など何かしら仮想敵を作ってアンチビジュアルノベルと言う概念は成り立っている。
その中でも『Class of ‘09』は美少女として男性を拒絶するという意味で分かりやすくアンチビジュアルノベル/デートシミュだ。この作品はその
限界の自覚と克服 内省装置としての『The Talos Principle 2』
失敗や挫折は数あれど、その中で意味のあるものは稀だ。失敗に意味が伴ってほしいという思いは、もはや祈りにも似た切実な響きを持つ。
意味のある失敗や挫折というのは「できない」という事実を受け止めながら、それでも挑戦を続けた先に、自分の限界を見ることで成立する現象だと思う。失敗や挫折はその過程に限界の自覚という新たな発見があるからこそ、意味のある経験として自分自身に刻まれる。*1
以上のように意味の
『The Cosmic Wheel Sisterhood』における一回性とゲームにおける変更可能性の衝突 そして自由意志の危機
『The Cosmic Wheel Sisterhood』は占いを通じて選択を繰り返し、その選択の影響を楽しむ占いADVだ。この記事では既に多く語られている今作の美点ではなく、構造上の問題点に焦点を当てて語っていきたい。ネタバレが含まれるので未プレイの方はまず自分でプレイすることを推奨する。「選択の先にプレイヤーの物語ができる」という今作の結論を前提とした性質をここでは論じているからだ。
『Th
『SLUDGE LIFE』 消費主義に上書きされる社会への反抗
『SLUDGE LIFE』は島を自由に探索するオープンワールド形式のアクションゲーム。
プレイヤーは島を歩き回って街のあちこちにグラフィティを残して回る。正直私はこの文化への理解が十分ではない。ストリートアーティストという存在がどのような主義主張を持っているのか分かっていない。
しかし、街の景観を不法に自分のグラフィティで上書きするという行為に、社会への反抗という主張を読み取っても的外れではな
『沙耶の唄』 沙耶の愛
『沙耶の唄』は2003年発売の、美少女ゲーム、ADV、アダルトゲーム。
『CROSS†CHANNEL』に続いて『沙耶の唄』をプレイ。偶然にも両作品ともに2003年発売の作品。Windows11でも正常に遊べました。
主人公とプレイヤーの立場の重なりプレイヤーは最初の約二時間にわたって、知覚に異常をきたした主人公・匂坂郁紀の視点を借りて物語を読み解くことになる。人は内臓の塊のような化け物に変わり
Sam Barlow『Immortality』における神と、黒沢 清『降霊』における霊の交点
※この記事には『Immortality』のネタバレが含まれます。
この記事では前回の記事では展開しきれなかった『Immortality』と『降霊』という二つの作品の超常的なものに対するまなざしについて書いていく。
『降霊』における霊まず初めに黒沢清監督の『降霊』(1999制作)における霊について述べていきたい。この作品において霊の存在は普通のホラー作品とは一線を画す方法で映されている。その特
『Inscryption』代替現実ゲームという世界観の破壊
先日『The HEX』をプレイして『Inscryption』への違和感が言語化されたのでここに残す。『The HEX』は『Inscryption』と同じDaniel Mullins Gamesが開発した作品で、『Inscryption』の前作にあたる。
※この記事には『Inscryption』のネタバレ、『The HEX』の軽微なネタバレが含まれます。
『The HEX』はホテルに集った様々
哲学者大戦争としての「NieR:Automata」
この作品には謎の多いストーリーや個性豊かなキャラクター、そして思わず立ち止まってしまうような終末世界の風景など魅力的な要素に溢れている。しかし、ゲームをプレイする中で最も強く私の印象に残ったものは哲学者の名前を冠した機械生命体の存在だった。
「パスカル」「ヘーゲル」「エンゲルス」「マルクス」「ボーヴォワール」「キルケゴール」「ロウシ」「ソウシ」そして「サルトル」。思いつく限りでもこのような面々