拒絶のアンチビジュアルノベル 『Class of ‘09』
現代のビジュアルノベルは、どの作品もそれぞれの意味でアンチビジュアルノベルと言う事ができる。長時間プレイを求められない、美少女とデートしない、ミニゲームによる操作可能性がある、など何かしら仮想敵を作ってアンチビジュアルノベルと言う概念は成り立っている。
その中でも『Class of ‘09』は美少女として男性を拒絶するという意味で分かりやすくアンチビジュアルノベル/デートシミュだ。この作品はその立場を明確に打ち出している。
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この作品紹介の通りソシオパスであり、クリスマスの日に父親に拳銃自殺された主人公のNicoleは、あらゆる男性や大人を拒絶し破滅に追い込んでいく。
そんな滅茶苦茶で、ともすれば性別間の分断を進めてしまうような過激な作品がなぜここまで評価を受け*1、レビューでは大喜利大会が開かれるまでに受け入れられているのか。
そこには2つの理由があると考えられる。1つ目はこの作品のジョークが面白いからだ。この作品の感想を読むと「ジョークが面白かった」という声がとても多い。過激な内容をジョークで包んでお出しするのは確かに面白いし、その主張に賛同するかは留保するにしても受け入れられやすい。*2
2つ目はこの作品が現実に基づいて作られたという点が挙げられる。以下は開発者の言葉の翻訳。
この作品には先述したジョークに包まれて様々なシリアスなテーマが扱われる。有害な男性性、白人至上主義、未成年淫行、いじめ等多岐にわたる。それらは現実の反映であり、推奨されたものではないことが提示されることで、プレイヤーはゲームに向き合う真剣さを求められる。このジョークとシリアスさという相反する2つの方向性を、しかし前者が圧倒する形で提供されるのがこの作品が受け入れられた理由であると考える。*3
それではこのシリアスなテーマに対して、この作品は真剣に向き合っていると言えるのだろうか?この問いに対してすべてのエンディングを見た私としては「Yes」と答えたい。
不快な現実を露悪的に描写するという点で、『陰キャラブコメ』に並ぶ作品であると個人的には考える。*4
立場の違いから相手の問題に気が付けない、という諸問題の根本を言葉少なにも雄弁に描いている。写実的とは言えない絵柄から放たれる声優的でない、しかしキャラクター的な絶妙な読み上げはキャラクターの怒り、愚かさを生々しく表現し、プレイヤーの選択は主人公を決して良い方向には導かない。キャラクターの問題ある行動・思考、あるいは有害性のある他者や環境が最悪の結末を導いたという事を包み隠さず描写しているという点で真摯であると言える。
クリアした後に残った懸念点は作品にではなく、これをプレイし高評価をしたプレイヤーの側にある。作品内のジョークや破綻したキャラクターにばかり焦点を当てて、大喜利大会に興じる様(Steamレビュー)を見ると、この作品が主要なテーマとして据えた問題をプレイヤーが正しく認識できているのか確信が持てない。アンチビジュアルノベルを掲げる今作のキャラクターを記号化し、はやし立てる様は今作を普通のビジュアルノベルのように消費する構造の現れに他ならない。また『Class of ‘09』はこの作品の主要なターゲット層であろうオタク男性の問題点や、境遇への理解を示している。同じ被害者であるはずのナードにすら差別的な言動を受けた、という経験がひしひしと伝わってくる表現にも関わらず、当のプレイヤーがオタク的にはしゃいでいる様に私は軽く絶望した。
現在『Class of ‘09』は続編である『Class of '09: The Re-Up』をリリースし、アニメ化のためのKICKSTARTERプロジェクトが進行中です。日本語化される未来は全く見えませんが、英語に弱い自分でも読み上げのおかげでストーリーの大枠や雰囲気だけは掴めたので、是非に。自殺に関するジョークや話題があまりにも多いのでそこは注意です。
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*2:ただし今作は読み上げに伴ってテキストが流れていき、バックログもないので私は会話の半分も理解できず、終始シリアスな面持ちで画面を眺めていた。またジョークのセンスも馴染みがないものなので「これ笑っていいのか?」というネタがあまりに多く、ジョークの面白さを受け取ることは私には難しかった
*3:それにしてもジョークとして受け取る向きがあまりにも大きくて、そんなスタンスでゲーマーたちは本当に問題を認識できているのか?という気分にさせられる。笑いの効果はシリアスな問題を無化してしまうのではないか。
*4:弱者男性を殴りながら語り合う、という点でもこの作品間には共通のテーマを見つけることができる
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