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映画【蛇の道】描かれない美学~スクリーンの外で~

当たり前のように復讐が行われる。そこに対する逡巡はスクリーンの外にある。香川照之が心配しているのは道徳的なことではなく、ターゲットが間違っていたらということだ。車の中で、娘の動画を見て自分を鼓舞する。これほど「描かなくてもいいあったかもしれないこと」を潔く描かない映画もない。

復讐とは悪意の塊だろう。だが善意も描かれる。香川照之は哀川翔を見捨てない宣言をした後、車の運転席から後部座席に移動する。たったそれだけのことをする。これが彼の見せるちっぽけな善意のすべてだ。

そのあと、銃声を聞いた香川照之は、哀川翔のもとに駆け付ける。
香川は何度も哀川翔への謝辞と自らの奉仕を繰り返しアピールする。香川には子どもがいたことはわかるが、妻は不在だ。描かれていないことがある。

香川は柳ユーレイと組んでよくないビデオを売っていたようだ。
哀川翔の娘の死がそれに関係するのかもわからない。だが香川が数学教室の秀才少女へ見せた笑顔と内に秘めた暴力。不穏だ。彼の中の悪はふとした瞬間に何度も現れる。
この映画では描かれていないことも実は描かれている。

この映画には続編があって、哀川翔が主人公で、学校の同級生に再開するという話らしい。どんな展開になるのか全く分からないが、ダンカンが出るところから、オフィス北野へのこだわりを感じる。黒沢清と北野武の共作が見たいものだ。

(写真はリメイク版蛇の道のホームページから)

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