ふわとろたまごの優しさに包まれて
少々無理をして、東京に行ってまで食べたくなるお菓子がある。
それはずっと前にSNSでお話していた人におすすめしてもらったものだ。どういう経緯だったかは忘れたものの、ある日二人で好きなスイーツの話になった。やはりそこは女性同士。とことん盛り上がる。
私がミルクレープが好きだと言うと、その人はこう言った。
「私は断然エッグタルトですね」
当時私はエッグタルトというものを知らなかったので最初目玉焼きのようなものを想像した。だからもちろんそれは甘いイメージではない。スイーツの話なのだから甘いはずだ。じゃあ玉子焼きに近いものなんだろうか。
「どういうお菓子なんですか?」
「そうですね、カスタードクリームみたいな生地をタルトに入れて焼き目を付けたようなお菓子です。温めて食べるととろっとしておいしいんですよ」
それを聞いた私は今度はシュークリームの味を想像した。私はカスタードクリームが大好きだ。ビアードパパのシュークリームは特にお気に入りで、近くに用事があれば寄って買うこともあるくらいだった。
「へえ…気になります!」
「今ならコンビニで売ってますよ」
「そうなんですか!?今度食べてみます」
その後私はエッグタルトへの憧憬に一日中浸っていた。こんがりした風味もあるシュークリームのようなものだろうか、と一人で考えてにやにやしてしまう。早く食べてみたい。気になって夢に見そうなくらいだった。
今度どころか次の日には早速コンビニに行き、エッグタルトなるものを物色した。すると見つかったのはタルトの下地に黄色くふわっとした卵の層、そしてその表面にうっすらと焦げ目のついたものだった。
正直な感想としては思ったよりも小さい…という少しの落胆があった。タルトと言うのでもう少し大きいイメージがあったのだ。けどよく考えてみればコンビニのお菓子ってこんなものだったと思い直す。
とりあえず気を取り直して家に帰ってからトースターで何分か温め、ナイフでエッグタルトの真ん中に切れ目を入れていく。私は猫舌のために熱々のままでは食べられないと思ったからだ。ざくざくと音を立て、ナイフは進んでいく。
その瞬間、中身の卵の部分がまさにとろっと崩れた。
それはまるで焼きたてのチーズの入っているハンバーグ。そして揚げたてのカニクリームの入っているコロッケ。同じく温めてから食するフォンダンショコラを思い出させる光景だった。これは絶対おいしい、と私は確信する。
ふーふーと何度か息を吹きかけ、とりあえず一口。思った以上のとろけっぷりに悶絶させられる。卵がふわふわ触感で、タルト生地がぱりっとしていて、その二つの層が混じりあった味わいも恐ろしくマッチしていた。
そして私の脳内では好きなお菓子ランキングに大きな変動が起こっていた。
あれから何年経っただろう。すっかり私の心を奪ってしまったそのお菓子は今もまた手の中にあった。私はスキップでもしそうな勢いで軽快に帰り道を進んでいく。しかもそれはもうコンビニ用に大量生産されたそれではない。
なんと世の中にはエッグタルト専門店という天国のようなお店があるのだ。
私はその事実を知った時、もう行くしかないと心に決めた。これは私にとっての大きな使命だと思った。何故なら既に我が家では私だけでなく母もエッグタルトの虜になっていたからだ。二人で顔を見合わせ、頷く。そしてあくる日に私は東京・表参道へと旅立ったのだった。
もちろん味は確かだった。卵がとにかくおいしい。こんなに濃厚なエッグタルト食べたことがない。ぺろりと平らげてしまって、写真を撮り忘れる始末だった。ちなみに今まで一回も写真を撮ることに成功していない。
専門店、おそるべし。