ヒーローになりたかった
認知症の母に施設に入ってもらうことを決めた。
実の親といえど、人の人生の重要な選択を自分の考え一つで決めてしまうのは、とても怖いし負担だ。
母が認知症と診断されてからまだ2年も経っていない。
何もできなかった、と思った。
何かしてあげたかった。
子供は、なぜ、親を幸せにしなければならない使命感のようなものを背負って生きようとするのだろう。
わが父ながらろくでもない男だということは中学生にして理解した。
私はずっと、ただ母に何の負担もないように幸せに笑ってほしいと願っていた。
学生で何の力も持たない私。
人生の大半の時間を主婦として費やし、経済力を持たない母。
女性が力を持ちにくい社会の構造を理解したここ数年は特に
その憤りと、やるせない気持ちに打ちひしがれた。
私は母のヒーローになりたかった。
苦しい場所から救いたかった。
生きるほどに自分の無力さを思い知る。
悲しいのか悔しいのか分からないけど、涙がとまらない。
だけど今ここで泣いて終わるのは違うということだけはわかる。
私は自分の弱さも強さも、もう知っている。
前に進まなくちゃいけない。
思考を止めず、できることをやらなくちゃ。
私は、私の意思で動き、私の生きたいように生き、私が掬いたい人のために努力する。そんな私であり続ける。
諦めない。少しでも心地よい未来のために。