『夢の秘法―セノイの夢理論とユートピア』は、マレーシアのセノイ族の夢コントロールに関する理論を扱った衝撃的なリポートを提供する。
この本は、かつてセノイ族による夢コントロールのメソッドを広めた研究者の理想主義的傾向を浮き彫りにし、そのメソッドが実際には存在しない架空のものであることを明らかにする。著者は、夢を巡る話し合いや子供への夢教育ではなく、土俗的な夢信仰や夢治療が実際に存在すると指摘し、スチュワートの思想傾向や催眠術による夢の採集に言及する。
六十年代の自己コントロール幻想に憑かれたアメリカの意識変容ブームを背景に、この時代の社会状況を冷静に見直す意図を持っている。しかし、セノイの現地調査を行わず、引用や又聞きのみに頼る点は物足りない。夢の創造性を認めつつも、フロイト、ユング、ボス、パールズの理論を列挙するに留まっている部分は、読者にとってはあまりピンと来ないかもしれない。
総じて、夢と超能力の研究が似通っているという視点から、夢の研究者と超常現象の研究者の立場を探求するこの作品は、研究対象そのものよりも、それを追う人間たちの足跡に興味を持つ読者には魅力的である。ベトナム戦争前後のアメリカの精神世界探求ブームの中で注目されたセノイ族の夢理論メソッドについての新たな解釈と批判を提供する一方で、セノイ族自体の知名度の低さが理解の障壁になる可能性もある。