本質をつかむ聞く力(2018/6/6)/松原 耕二【読書ノート】
「情報があふれる現代、真実はどこに?」そう問いかける松原耕二氏の著書『本質をつかむ聞く力 ニュースの現場から』は、多くの人々が頭を悩ませる疑問に対する一つの解答を提供してくれる。この本は、目まぐるしい速度で流れる情報の海の中で、どのようにして物事の「本質」に迫るかを探求している。
今日の社会で耳にする多くの言葉や発言が衝撃的で、ついついそのまま受け入れがちだが、松原氏はそのような動きに警鐘を鳴らす。まるで誘惑するような耳触りのいい言葉、一瞬で拡散するフェイクニュース。それらがどれだけ多くの人々を誤解や混乱に陥れているか、それを考慮に入れると、この本のメッセージはさらに重要に思えてくる。
松原は、真実を探求するための最良の方法は「じっくり聞くこと」だと説く。一見単純な行為であるように思えるが、この「聞く力」こそが、何が事実で何が仮象かを見極める鍵となる。このスキルを磨けば、単なる情報の消費者から、情報の質を評価できる「情報の評価者」に変われるのだ。
この本を手に取れば、私たちはきっと、耳に入ってくる情報一つ一つに対して、より疑問を持ち、その裏側にある本質を探求する力を身につけられるだろう。そして、それが真の意味での「知識」となる。
本書のポイント
相手の言葉に耳を澄ませる
言わないことに耳を澄まそう
話全体に耳を傾けよう
言い換え言葉の本当の意味を見抜こう
理屈はいつも正しいのか?
情報の二重性:両論併記の罠
現代社会で、共通の信念が急速に揺らいでいる状況にある。これまで社会を支えてきた前提とも言える共通認識が二つの見方に分かれることもある。
映画『否定と肯定』は、実話を基にしているが、現代社会への重要なメッセージが含まれている。ユダヤ人のホロコーストに関する否定論者と歴史学者(デボラ・E・リップシュタット)の裁判が2000年にイギリスで行われた。この裁判で、ホロコーストが本当にあったのかどうかが争われた。
この映画での印象的なセリフがある。否定論者と歴史学者が対決し、否定論者が言った言葉はこうだ。「(否定論者の戦術は)2つの見方があると思わせること。それで、みんなこう思うだろう。ああ、ガス室の肯定派と否定派がいるんだって。」
この言葉を聞いて、今の社会で広がっている現象を思い出す。ホロコーストは歴史的な事実で、多くの研究者がそれを証明している。でも、犠牲者の正確な数には議論の余地があっても、ホロコーストが実際にあったことは否定できない。
このような事実を否定する人たちは、裁判でその主張をした。そして、一部の人たちはホロコーストが実際にあったのかどうかを疑うようになった。この否定論者の戦術は、社会の共通認識を揺るがす『両論併記の罠』だ。
この罠は今の時代に特に目立ち、フェイクニュースが広がる原因でもある。たとえば、トランプ大統領が「地球温暖化はでっちあげ」と言ったことがある。これは科学的な共通認識に反する言葉で、専門家たちの間で長く議論されていた。しかし、このような言葉がネットで広がり、『両論併記の罠』が生まれた。
そして、世界中でフェイクニュースが広がっており、日本でも同じような事例がある。沖縄の基地反対運動についてのフェイクニュースが一つの例だ。地元の人たちが反対運動をしているのに、彼らが日当をもらっているという間違った情報が広がった。
これらの事例から、情報の二重性が問題になり、共通認識が揺らいでいることがわかる。私たちは情報を受け入れるとき、信頼できる情報源を選び、その背後の事実を見極める能力がとても大切だ。