屍人荘の殺人(2017/10/12)/今村昌弘【読書ノート】
作家・今村昌弘のデビュー作品は、第27回鮎川哲也賞の選考で選考委員(北村薫、辻真先、加納朋子)の満場一致により受賞が決定した。さらに「このミステリーがすごい!2018年度版」「週刊文春ミステリーベスト10」「2018 本格ミステリ・ベスト10」で第1位を獲得し、第18回本格ミステリ大賞も受賞するなど、国内ミステリーランキングで4冠を達成した。
今村は、この作品で特殊な仕掛けを組み込み、それが殺人の手段となるとともにクローズド・サークルを形成することになったと述べている。このアイデアは、鮎川哲也賞の過去の受賞作を読んで密室ものを書こうと考えたことが大きな前提であり、出尽くしたとされる密室トリックに新しい形を加えようとした結果だという。さらに、映画でよく見る場面を取り入れたが、実際に殺人が起きたことはないという点から着想を得たと語っている。『少年ジャンプ+』ではミヨカワ将によるコミカライズが連載され、神木隆之介主演で映画化もされ、公開された。
登場人物一覧
※演の項は、映画版キャスト。
主要人物
葉村譲(はむら ゆずる/演:神木隆之介)
経済学部1年生で、ミステリ愛好会の会員。ミステリ研究会に入る予定だったが、部員たちの情熱の不足を感じて躊躇していた。その後、明智に誘われて非公認のミステリ愛好会に入会し、明智と自分だけが会員だと知る。中学時代に震災の被害を受け、頭部に傷跡がある。明智恭介(あけち きょうすけ/演:中村倫也)
理学部3年生で、ミステリ愛好会の会長。「神紅のホームズ」と自称し、リムレス眼鏡をかける。ミステリ愛好会の知名度向上のため、サークルに名刺を配り、学内外の事件を解決している。剣崎比留子(けんざき ひるこ/演:浜辺美波)
文学部2年生で、横浜の名家出身。「探偵少女」と呼ばれる実績を持ち、多くの難事件を解決している。明智が映画研究部の合宿に参加したいと知り、同行を求める。
映画研究部の関係者
進藤歩(しんどう あゆむ/演:葉山奨之)
芸術学部3年生で、映画研究部の部長。真面目そうな風貌の痩せ型男性で、第1の事件の被害者。星川麗花(ほしかわ れいか/演:福本莉子)
芸術学部3年生で、演劇部の部員。進藤の恋人で、ウェーブのかかった栗色の髪とアイドルのような顔立ちが特徴。肝試し中に屍人に襲われ行方不明に。名張純江(なばり すみえ/演:佐久間由衣)
芸術学部2年生で、演劇部の部員。神経質で、乗り物酔いしやすい理知的な美人。高木凛(たかぎ りん/演:ふせえり)
経済学部3年生で、映画研究部の部員。姉御肌で、背が高く気が強い。ボーイッシュなショートヘアとくっきりした目鼻立ちが特徴的な美女。静原美冬(しずはら みふゆ/演:山田杏奈)
医学部1年生で、映画研究部の部員。小柄でおとなしい性格の清楚な黒髪の少女。進藤が襲われるのを目撃し、第2・第3の事件を起こす。下松孝子(くだまつ たかこ/演:大関れいか)
社会学部3年生で、映画研究部の部員。明るく強かで、金髪のふわふわパーマをポニーテールにしている。重元充(しげもと みつる/演:矢本悠馬)
理学部2年生で、映画研究部の部員。特殊な映画のマニアで、縁の太い眼鏡をかけた肥満気味の男。七宮兼光(ななみや かねみつ/演:柄本時生)
映画研究部のOBで、「紫湛荘」のオーナーの息子。小柄で整った顔立ちだが、肌が白く、目や口などのパーツが小さく、仮面をかぶっているような印象。第3の事件の被害者。出目飛雄(でめ とびお/演:塚地武雅)
大学のOBで七宮の友人。ぎょろっとした目つきとモヒカンに近い髪型で、魚類のような印象を与える。立浪波流也(たつなみ はるや/演:古川雄輝)
大学のOBで七宮の友人。オールバックの髪を後ろで結んでおり、ワイルドな二枚目。第2の事件の被害者。
その他
管野唯人(かんの ゆいと/演:池田鉄洋)
紫湛荘の管理人。東京の会社が倒産したため、知り合いの紹介で管理人に。眼鏡をかけた誠実そうな雰囲気の男性。浜坂智教(はまさか とものり)
儀宣大学の生物学准教授。家宅捜査を受けた際に研究資料と共に姿を消し、サベアロックフェスの観客たちを自身が開発したウイルスで感染させてバイオテロを引き起こす。班目栄龍(まだらめ えいたつ)
岡山の資産家で、「班目機関」の創設者。
感想
典型的なミステリーの枠を超え、密室殺人という古典的な謎に挑む。この閉ざされた環境の中で真実を解き明かさねばならない。そして、その過程で明らかにされる意外な真実は、ミステリーの醍醐味を存分に楽しませてくれる。作者は、古典ミステリーの要素に新しい息吹を吹き込み、読者を引き込む。彼らの手法は一見革新的に見えるが、その根底にはミステリーの伝統への深い敬意がある。物語は、推理小説の愛好家だけでなく、新たな挑戦を求める読者にも新鮮な体験を提供する。
総じて、この物語はその洗練された構成と予期せぬ展開で、多くの読者を魅了することだろう。物語の奥深さと謎解きの楽しさは、ミステリーを新たな視点から楽しみたいと考えるならば、この作品はまさにその求めているものかもしれない。しかし、伝統的なミステリーを好む読者には、もう一歩踏み込んだ探究が必要かもしれない。とくに、ノックスの十戒などというものに拘っているような読者には……