墨のゆらめき/三浦しをん(2023/05/31)【読書ノート】
西新宿の超高層ビルに囲まれた6階建て24室の小さな昭和感あふれるホテルで働くベテラン社員、続力(つづきちから)。
本来の仕事は宴会場係だが、フロント業務や荷物運び、夜勤も担当する。続は人とのコミュニケーションを取るのが得意で、ホテルマンとしての自覚がある。
遠田薫は筆耕士兼書家として、遠田書道教室を切り盛りしていた。代筆の仕事もこなし、書道の世界で独自の地位を築いていた。養父、遠田康春もかつては著名な書家で、薫は彼の後を継いでいた。
ある日、ホテルでの別れの会の企画が持ち上がり、その宛名書きを薫が担当することになる。続は薫のもとを訪れ、直接依頼をすることに。そこで初めて薫と対面するが、彼との出会いは予想外の展開を迎える……
薫の書道教室を訪れた続は、何度かの試みの末、薫と対面する。その時、彼は小学生に書道を教えていた。生徒たちは薫を「若先(わかせん)」と呼び、彼女の周りには特別な空気が流れていた。続もすぐに薫と打ち解け、「チカ」という愛称で呼ばれるようになる。
教室でのひと時、続は薫が生徒からの代筆依頼を受ける場面に立ち会う。生徒の一人、ミッキーは転校する友人への手紙を薫に依頼する。薫はその依頼を受け、ミッキーの文字を自分の筆跡で真似ることを約束する。しかし、文面を考えるのが苦手な薫は、続に助けを求める。ここから、二人のユニークな関係が始まる。
しかし、ある事件がきっかけで、薫は続に「もう来るな」と告げ、彼を教室から遠ざける。それでも続は薫の書道に魅了され続け、彼からもらった詩を見て再び会いに行く決意を固める。
彼の心には、書道への理解と、薫との絆が深く刻まれていた……