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生きのびるための事務/坂口恭平(2024/05/16)【読書ノート】

私は実験によって、少なくとも次のことを学んだ。
「もし人が自らの夢の方向に自信を持って進み、頭に思い描いた通りの人生を生きようと努めるならば、普段は予想もしなかったほどの成功をおさめることができる。」ということだ。
[ヘンリー・デイヴィッド・ソロー/森の生活]


どんな仕事にも欠かせない存在。それが《事務》。

「ピカソのような芸術家が、直感だけで生きていると思うか?」
この問いは、芸術家も会社員も、どんな職業の人間であれ、事務作業を軽視しては何も形にできないことを示している。夢を現実に変えるカギは、他でもない《事務》なのだ。
「自分に自信がない」「やりたいことが続かない」「考えすぎて動けない」
これらの悩みの多くは、実は事務能力の不足に起因している。目に見えないところで地道な作業を積み重ねる力が、成功を支える原動力となる。
本書は、作家、建築家、画家、音楽家など多彩な活動を行う坂口恭平が、若い頃に出会った優秀な事務員との対話を通じて学んだ《事務》の技術を基にしたコミック作品。無骨な響きの裏に隠された重要性を、ストーリー形式でわかりやすく描き出している。
「行動できない」「目標を高く設定しすぎる」「悩んでばかりで動けない」
そうした課題を乗り越える方法は、すべて《事務》に集約される。これこそが、本書が届けるシンプルで本質的なメッセージである。

本書要約

はじめに:ジムとの出会い

坂口恭平氏は、収入源を一つに絞らず、作家・画家・音楽家として活躍している。大学4年生の頃、就職活動に魅力を感じず、自分の進みたい道を模索していた際、「ジム」という存在と出会う。ジムは「イメージできることは実現できる」と励まし、スケジュールやお金の管理を通じて坂口氏の創造的活動を支える基盤を築いた。ジムとの対話を通じ、素直さと行動力を得た坂口氏は、好きなことをして生きる人生を実現した。

第1講:事務は『量』を整える

大学4年生の僕は、無職で芸術家を目指す中、「ジム」と出会った。ジムは現実的なアプローチで生活を整える術を教えてくれた。彼は、どんな芸術家でも成功のためには「事務員的な仕事」が必要だと説き、ピカソや草間彌生の例を挙げ、計画性の重要性を説明。
まず生活費を可視化し、月の支出を具体的に把握。ジムのアドバイスに従い、年金や奨学金の支払い猶予を申請し、生活費を7万7000円に削減。必要な収入を日雇いバイトで効率的に稼ぐ計画を立てた。この過程で、お金を「量」として捉え管理することの大切さを学び、さらに、ジムはスケジュール管理の必要性を提案。未来を見据えた計画を立てることで、創作活動に集中できる環境を整えた。ジムの冷静で実用的な指導を受け、無計画だった僕は次第に自分の目指すべき方向性を見出し、事務員的スキルの価値を理解していく。

第2講:現実をノートに描く

ジムは僕の家に居候しながら「ノートは未来に行くタイムマシン」と言う。最初は彼を疑ったが、彼のノートには10年間書き続けられた生活記録が詰まっていた。ジムは祖父の「無駄な努力をするな」という教えを守り、現実を記録し続けているのだ。僕もノートに現実を書いてみると、自分の生活や行動が明確になり、現実を忘れやすいからこそ書き留める意味を感じた。さらにジムは「未来もノートに書ける」と言う。具体的に未来の自分をイメージし、それをノートに記録することで、現実を動かす手助けになると説いた。最初は信じられなかったが、ノートを通じて自分の過去と未来に向き合ううちに、その可能性を感じるようになった。ジムの考え方は奇抜だが、現実と向き合い、未来を描く力がノートにはあることを教えてくれた。

第3講:未来の現実をノートに描く

ジムは、未来を明確に描くために「10年後の自分の1日」を具体的にノートに書き出す重要性を恭平に説いた。曖昧な夢を追うのではなく、現実的なスケジュールや収入目標を設定することで、人生の方向性がはっきりするという考えだ。恭平は過去の経験を通じて学んだ「段取りの重要性」を思い出し、それを未来の計画に活かした。結果、朝5時起床の執筆から始まり、音楽制作や依頼仕事、早寝早起きの充実した1日を設計した。この計画を基に、将来の収入目標も具体化した。ジムは「現実を基盤に夢を追う」順序を強調し、その手法が恭平の未来設計を大きく進めた。

第4講:事務の世界には失敗がありません

ジムの世界には失敗という概念が存在しない。重要なのは10年後の具体的な未来をイメージし、その実現のために現実的な計画を立てること。過去の経験を基に、収益の内訳や目標を数字で具体化し、夢を現実へと近づけるプロセスがジムの本質だ。たとえば、年収1000万円を目指す場合、出版、連載、トークショー、ライブ、絵画販売などを組み合わせて収益を計画する。失敗は他人の評価に過ぎず、好きなことを継続することが成功への鍵となる。具体性は命を宿し、成長を促す力を持つ。未来を見据えた計画は現在の行動と直結し、迷いを減らし目標達成を可能にする。ジムの教えは、若者たちに希望と地図を与え、より良い未来を描く助けとなる。

第5講:毎日楽しく続けられる事務的『やり方』を見つける

成功するためには「うまくいく方法」だけを選び、それを実践することが大切。失敗の原因は才能不足や自己否定ではなく、間違った方法の選択だ。自己肯定も無理に行う必要はなく、正しいやり方を見つければ自然とうまくいく。具体的には、10年後の理想を描き、それを実現するための方法を現実に落とし込む。たとえば、起きる時間や日々の活動内容を見直し、合わない部分は適切なやり方に置き換える。才能とは「好きなことを続ける力」であり、評価とは別の問題。評価を求める場合でも、自分に合った相手や状況を探すことが重要だ。本を書きたいなら編集者を見つけ、絵や美術では評価してくれる人やプロジェクトを活用する。ジムの思考を借りて無駄な心配を除き、自分に合ったやり方を続ければ、理想の未来は実現可能なのだ。

第6講:事務は『やり方』を考えて実践するためにある

ジムは、自分で方法を考え、それを実践する場である。興味のあることに集中し、好きなことを続けていれば、最終的に成功するという考えがその基盤にある。ジムを活用することで、日々の行動を改善し、不安を乗り越えられる。例えば、不安な夜にスイカの種を撒くという行動を通じて、心の変化を感じることができた。ギターや文章を書く習慣から得た教訓は、「やりたいことを優先し、試行錯誤しながら進む」ことの重要性だ。また、無職という現状の中で、自費出版や建築家の生き方を参考に、ジムを通じて生活を改善し、創作活動を進める道を模索している。ジムは個々の生活や仕事に応用可能な仕組みであり、人々との関わりや自身のアップグレードを促進する装置でもある。最初は小さな一歩から始め、徐々に進化を遂げる。その結果、生活は確実に豊かになり、最終的には目標が達成されると確信している。

第7講:事務とは好きとは何か?を考える装置でもある

ジムとは、自分が「好き」と思うことを探り、人生を進めるための道具である。著者は、ジムの教えを実践しながら、自作の写真集『0円ハウス』の出版を目指しリトルモアへ挑戦する。最初は冷たく断られるが、アートディレクターの助言を信じ再び電話をかけ、作品を見せる機会を得る。また、作った音楽アルバムを憧れのデビッド・バーンに送る計画も立てる。ジムは、評価に揺らがず好きなことに没頭する大切さを教える。人生は「好き」を見つけ、それを続けることでしか満たされないと説く。社会的な評価や安定を求めるだけでは退屈な人生になる。著者は挑戦を続ける中で、スイカの芽が出るのを見て、自分も続ければいつか芽が出ると確信する。ジムは、挑戦を支える存在として人生を豊かにする道具である。

第8講:事務を継続するための技術

ジムのアドバイスで、自分の活動を法人化する案が進展。出版契約では印税0円からスタートする代わりに、10版目から10%の印税を得る条件を獲得。翻訳の展開や海外市場への期待も膨らむ中、ジムの提案で「コトリエ」という名前の合同会社を設立することに決定。法人化の目的は、活動を仕事として見える化し、収益管理をしやすくすること。印税や経費の扱いを工夫して収入を最大化し、税負担を抑える方法も学ぶ。さらに、アートフェスとのつながり、デビット・バーンへのアプローチなど、活動範囲を広げる展望が次々と生まれる。法人化により、自分の活動を継続可能で効率的にする仕組みが整い、ジムという概念が新たなモチベーションの源泉となる。楽しみながら進められるこの取り組みにより、最終的に理想の形で自分のやりたいことが実現すると確信し、さらなる挑戦への意欲が高まる。

第9講:事務とは自分の行動を言葉や数字に置き換えること

ジムの哲学は、自分の行動を言葉や数字に置き換え、計画的に実践すること。僕は出版企画「0円ハウス」を進める中で翻訳者を探し、資金不足を解決するためギターやiMacを売却した。ジムは「前払い」を提案し、依頼者のモチベーション向上や効率的な作業を実現する重要性を説く。翻訳では将来の翻訳家志望者を活用し、ネイティブチェックを外注する方法を採用。さらに、ジムは国内出版の限界を指摘し、海外市場を開拓するための英語翻訳とフランクフルトの本の見本市参加を提案する。「好き」という思いが世界を変える力になるとし、挑戦の重要性を強調。僕は自らの恐れを克服し、未来への可能性を切り開く行動を見せる。ジムの指導は、好きなことを死ぬまで楽しむための方法論として機能している。

第10講:やりたいことを即決で実行するために事務がある

販路からの招きでパリに行くことになり、手元の10万円を使って行動を開始。ジムの計画で旅費を工面し、パリではギターで稼ぐなど現地調達を計画。さらに、フランクフルトのブックフェアでは日本の出版物を扱うアイデアブックスと直接交渉を試みることに。ヒッチハイクで成田空港へ向かい、パリに到着。現地ではトミーという黒人と出会い、地下鉄の改札を無賃乗車で通過しながら笑いに包まれる。目的地はカフェ「シャロボン」で、販路との合流を目指す。自家製本を手に、ギターを背負いながら進む旅は、楽しさと新たな出会いで満ちている。やりたいことを最速で実行し、ジムと共に新たな挑戦に挑む冒険が始まった。

第11講:どうせ最後は上手くいく

ジムとともに訪れたカフェ・シャロボンで中国人のホウと出会い、僕の作品がベルギーの「アルボズ・フェスティバル」に展示されることが突然決まる。さらに、法はパリの現代美術館「パレット東京」のディレクター、ジェロームを紹介してくれるという。中学生の頃に描いたエッフェル塔の絵を思い出しながら、僕は芸術家になる夢を現実のものとして意識する。
その道中、ジムはスティーグリッツとマルセル・デュシャンの話をし、スティーグリッツの写真術が便器を芸術に昇華させたことを語る。このエピソードは、アートがどのように文脈や背景に依存するかを強調し、僕に深い気づきを与えた。パレット東京の歴史に触れながら、僕たちは新たな展示の場へと進む。「どうせ最後はうまくいく」という言葉を胸に、次なる挑戦に向けて歩み出した。

あとがき

坂口恭平:2024年3月18日執筆
この本は、20年前の僕の生活をもとに描きました。ちょうど最初の本を出版するという、人生の節目を迎えていた頃、僕が考えていたことや感じていたことを詰め込んだ内容です。当時、僕は自分の仕事でお金を稼ぐこともできず、ようやく1冊目を出版できたものの、それ以降も書き続けられるとは到底思えませんでした。それでも不思議と、「なんとかなる」という根拠のない確信があったんです。問題が起きても、1つずつ順番に対処すれば死ぬことはない、大丈夫だと。これは、ジムのおかげです。
ジムは、現実に存在する人ではありません。イマジナリーフレンドのような存在として、僕の心の中にいつもいました。支えもなく、不安に押しつぶされそうだった僕を励ますために、ジムは生まれてきたのでしょう。今でも僕とジムは一緒に生きています。本書では、ジムと僕がどのように行動し、この20年を過ごしてきたのかを書きました。
最初はパレット東京のディレクターに出会い、販路の紹介を受けたことが大きな一歩でした。紹介の力がどれほど重要かを実感しました。その後、ディレクターを通じてパリの雑誌で10ページにわたる特集を組んでもらいましたが、もちろんノーギャラ。しかしジムは「世界に自分の仕事を知ってもらう良い宣伝だ」と言いました。ロンドンとパリの書店を一軒一軒回り、フランクフルトのブックフェアにも足を運びました。これらはすべて自費で、アルバイトをしながら必死で費用を捻出しましたが、その甲斐あって成果が現れます。ブックフェアで出会った人々を通じて、僕の本はニューヨークのモマに置かれることになり、さらにバンクーバー州立美術館の学芸員ブルースとの縁が生まれました。彼はわざわざ僕の4畳半の部屋を訪れ、1年後にバンクーバーでの個展が実現しました。日本では無名で売れ行きも芳しくありませんでしたが、バンクーバーでは美術家として受け入れられ、毎年約500万円分の絵が売れました。そのおかげで、バイトを辞め、自分の理想の生活を送れるようになったのです。毎日原稿を書き、絵を描き、音楽を作る日々。売れるかどうかは関係なく、やりたいことを続けることが目的でした。
2011年、震災をきっかけに熊本に戻り、妻と結婚し、子どもも生まれました。その後「新政府」という活動を始め、それをまとめた『独立国家の作り方』が6万部売れるヒットに。ここからジムと一緒に描いてきた計画が、10年で年収1000万円という形で実を結びました。

現在では娘や息子も創作活動を始め、僕たち家族で作り上げた美術館で作品を販売しています。物欲はなく、創作欲だけが尽きないため、収入はすべて次の活動に投資しています。僕はジムを頼りにしながら、24時間創作に没頭できる環境を手に入れました。誰がどう思おうと気にせず、自分の好きなことに全力を注ぐ。そうすれば、どんなことでも生活の糧になると学びました。
2012年から始めた「命の電話」では、死にたいと悩む人々の声を聞き続けています。ジムが教えてくれたことを伝えることで、彼らの生活に変化をもたらすことを目指しています。そして今、次の20年で「自殺者をゼロにする」という目標を掲げています。ジムもそれに賛成し、計画を立て始めています。僕とジムの物語は、これからが本番です。ぜひこの本を読んで、あなたの中のジムに耳を傾けてみてください。ジムはきっと、あなたのやりたいことを見つけ、実現する手助けをしてくれるはずです。


Kindle版


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