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博士と助手の人生ゲーム2

前作はこちら。

年老いた博士
 
それを支えてきた、
ヒューマノイドの助手
 
テラスで日差しを浴びながら、
博士の背中をさすっている助手。
 
「気持ちがいいのう」
過ごしやすい季節になりましたね博士」
 
「まさにうららかな春の陽気とは、
 こういう日のことを言うのじゃろうて」
春麗はるうら
 素敵な表現ですね」
 
「こういう天気のいい日は、
 いつもあの言葉を思い出すのう」
「それは何ですか?博士」
 
今日は死ぬにはもってこいの日だ
「博士それは、
 アメリカ先住民族せんじゅうみんぞくの言葉ですね」 
 
「そうじゃ。
 大自然と共に生きてきた
 彼らならではの感性じゃな」
「……」
 
「自分たちも自然界の一部であり、
 死も巡り巡るもので特別なものではなく、
 常に身近なものだととらえている。
 いつ何事で死ぬかもしれん大自然の中で
 生き抜いた彼らならではの言葉じゃな」
「深い考え方…なのでしょうね」
 
「お前にはわからんか?」
「すいません博士。
 私には死生観しせいかんがよく理解できません」
 
「死については理解しとるじゃろ?」
「データとしてはインプットされてますが、
 それを自分のこととして、
 思考するのが難しいのです。
 私たちの生死は、
 電源のONとOFFなので」
 
「確かに言われればそうじゃな。
 死生観は人の数だけ存在するしのう。
 
 思い返せばわしも、
 若い頃に観たフランス映画の死生観が、
 理解できんかった…。
 
 その映画では本当にかれ合って
 結婚したカップルが出てくるんじゃ…。
 
 ずっと相思相愛そうしそうあいの仲で、
 幸せな結婚生活が続いていた。
 
 だがそんな幸せの絶頂期に、
 奥さんが川に身を投げ帰らぬ人に…。
 
 愛するがゆえの選択…。
 
 夫の中の自分は、
 いつまでも美しいままでありたい
 
 幸せのまま…愛されたまま死ぬ…。
 
 あとで解説も見たんじゃが、
 当時のわしには、
 その心境がわからんかった。
 
 でも今ならわかる…
 ちょうど今、そんな気分じゃ…」
「私には全く理解できません。
 一生無理かもしれません」
 
「そんなことはないさ。
 わしも60年かかったんじゃ。
 お前も月日が経てばわかる日も、
 来るじゃろう」
「そんなものでしょうか」
 
「わからないこととは、
 案外、経験や時間が、
 あっさり解決してくれたりするものじゃ」
「わかりました博士。
 気長に考えることにします」
 
あせらずな
「はい。
 そういえば博士。
 またわたくしゲームを作ったので、
 手合わせお願いできませんか?」
 
「お前は凄いのう。
 ゲームもゲームの誘いも突飛とっぴじゃの。
 毎回、度肝どぎもえぐり取られるほどの、
 衝撃じゃぞ…お前のゲームは」
「おめ頂きありがとうございます。
 博士にはきたりのゲームでは、
 楽しめないのではないかと、
 日々試行錯誤を繰り返し、
 開発に取り組んでます」
 
「お前は研究も熱心じゃが、
 ゲーム作りも同じ熱量じゃからな」
「はい。
 今回も力作です」
 
「楽しみじゃのう。
 さて、今回はどんなゲームじゃ?」
人生ゲームリボーンです」
 
「リボーン?
 この前のとは違うんじゃな?
 前回は結局わしが、
 スタート地点から一歩も動くことなく
 
終わったからのう」
「あのゲームは、
 人生を楽しむをテーマに作りました。
 そして今回のリボーンはまさに、
 死生観がテーマになってます」
 
「お前の死生観?
 それはとても興味深いな。
 どれやってみるか」
「わかりました。
 今回はお金という概念がいねんはありません。
 とにかくゴールすることが目的です」
 
「わかった。
 ひたすらゴールを目指せばいいのじゃな」
「はい。
 あとはルールは一緒です。
 マス目の指示にしたがって下さい。
 じゃあ、博士からどうぞ」
 
「また、わしからでいいのか?
 じゃあ、いくぞ…それっ!
 7じゃ!まずまずじゃな。
 どれ、1・2・3…6・7と!」
政治イベントマスです。
 年金改革で受け取り年齢が、
 90歳からとなりました。
 それにともな定年が80歳
 引き上がります」
 
「妙にリアルなマスに止まったのう。
 それで?」
「はい。
 定年が一気に15年延びましたので、
 ゴールまでの道のりも、
 15年分追加されます」
 
「おいおいおいおい!
 ゴールのマスが…遠~くなったぞ!」
「はい」
 
「ゲームマスが3割増しとる」
「今回の人生ゲームはマスが変動します
 
「また…面白いことを、
 思い付いだもんじゃのう」
「はい。
 では次は私が…それ!
 6です。
 1・2・3・4・5・6。
 医療改革マスですね」
 
「医療改革?」
「このマスに止まったことで、
 医療技術が飛躍的ひやくてきに進歩します。
 それにより人の平均寿命が、
 200歳に引き上がりました」
 
「おいおいおいお~~い!
 ゴ~~~ル!
 あ~~んな向こうまで行ったぞ、おい!
 たった2ターンでゴールが、
 はる彼方かなたじゃぞ。
 大丈夫か、このゲーム?」
「大丈夫です。
 途中のマスには止まることで、
 ゴールになるものもありますので」
 
道中どうちゅういきなりゴール
 お前ならではの発想じゃな…ん?
 なんじゃこのマス!」
「!」
 
「なになに…動物園へ行く
 ゴリラに石を投げられ
 天にされる……ゴール…」
「見つかってしまいましたか?
 それが途中のゴールマスです」
 
「お前に死生観……
 100年早いわ
 
 

これは未来の話でありフィクションです。
でも30年後はさだかではない…。 

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