ワンダフルライフ ~転生~
古い駅舎のような建物に、
今日も沢山の人がやってくる。
ここは…
亡くなった方が訪れる場所。
ここで彼らは…
最後の選択をする。
「じゃあ、次の方どうぞ」
「どうも、後藤です」
「後藤さん…後藤さん、はいはい。
後藤さんは初めてですね」
「初めてと言いますと?」
「ここに来るのがです」
「はい」
「後藤さんは初めてということなので、
施設でやることをご説明します。
ここに来られた方は、
ある選択をして頂きます」
「ある選択?」
「それはですね、
転生についての選択です」
「転生?
私は生まれ変われるんですか?」
「はい。
もう既にあなたは、
転生することが決まっています。
もちろん転生しないという
選択もあなたにはあります」
「転生しない人なんているんですか?」
「おられますよ。
余程お疲れなのでしょう。
多くの方はもうゆっくりしたいと言って、
しないケースはよくあります」
「人それぞれあるんですね。
転生されない場合はどうなるんです?」
「その場合は、
また別の施設へ移動して頂き、
天国へ行く準備をすることになります」
「天国へ行けるんですか?
準備ってどんな?」
「それはお教えできません。
私が他の施設の事を話せるのは、
ここまでです」
「そうですか、すいません」
「よろしいですか?
まずはここで転生するしないの選択。
そして転生先を自分か、
もしくは自分以外なのかを、
選んで頂きます」
「もう一度、自分になれるの?!」
「可能ですよ。
これまでの記憶は消去されますが、
思考などはそのまま引き継がれます」
「どうしようかな~。
ちなみに性別は変えられます?」
「それは無理です。
数年前までは可能でしたが、
色々とトラブルがございまして、
廃止されました」
「そうか~。
でも今の自分ですよね…
正直、あんまり自分の性格、
好きじゃないんですよ」
「そうですか。
じゃあ、自分以外を…」
「いや、ちょっと待って!
確かに馬鹿正直でお人好しで、
すぐに人に乗せられ騙されて、
出世や成功とは縁遠い、
報われないタイプなんです、私」
「はい」
「でも、ちょっとそういうとこ、
気に入ってたのかな~自分。
人に対して悪さはしなかった。
しなかった一度も、うん。
これだけは自分の誇りなんです」
「話が長くなりそうなのでお薦めします。
圧倒的に自分に転生される方が多いです」
「そうなんですか?!
みんな自分大好きなんだあ~」
「周回されてる方もおられます」
「周回って何です?」
「最近、話題の方ですと、
芦田様は6周目…
升野様は16周目…
大谷様は17周目…
最高では羽生様の19ですね」
「錚々たるメンバーですね。
人生何周目ってのもいいけど、
自分以外への憧れや、
変身願望はあるんだよなあ。
自分って生まれ変わっても自分でしょ?
自分のこれまでの人生って、
ほんと平凡そのものだったから…
よし!決まった!
自分以外でお願いします!」
「それでいいですね?」
「はい、それでお願いします」
「わかりました。
では新たな素敵な人生を」
私は光に包まれ…
次の瞬間、辺りは真っ暗。
「一体、ここはどこで、
自分は誰なんだ?」
見上げると小さな穴から、
微かな光が差している。
私はそこへと向かった。
穴から顔を出すと、
目が眩むほどの光が降り注ぐ。
「ん?地上?
視点が低いな…あれ?」
周りを見渡すと、
同じように穴から顔を出している生き物。
「ねずみ?!」
ようやく後藤は自分が、
小動物に転生したことを知る。
「こ、こ、これって、
素敵な人生じゃなくて、
ワイルドライフだろうが~~!!」
【ナレーション】
砂漠のギャング、
ミーアキャットは今日も、
群れの縄張り争いを繰り広げるのでした。
END
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