師走ピープー
由緒ある神社境内。
人混みの中を歩く女性。
(今年も…
もうすぐ終わりかぁ…
あっという間だったなぁ…。
五月病とか騒いでたのに、もう年末だよ~
仕事仕事で…
今年もひとり………ハァ…
これ…
去年も言ってた…
でもいいの。
病気もしなかったし、
毎晩、お酒が美味しい…それでいいの。
神社にお参りしたら、
家に帰って特別なビール飲みながら、
紅白でも見よう~
それにしても…
年末詣する人って、こんなにいるんだ。
あっそうか…
解除されたから…
そうだよね~
あっ。
なに、あの子、可愛い~!
もこもこの服着て…何あれ~!
コアラァ~?!
アルパカァ~?!
超カワイイんだけど~!
写メ撮っちゃダメ~?!
お父さんと手つないで~
ブンブン振ってるし~
楽しそう~♪)
「パパ。
おうた、うたって!」
「ん?
何の歌がいいの?」
「え~とね。
もいくつねると!」
「いいよ~。
いい?
いくよ~。
も~い~くつね~る~と~お正月~♪」
(懐かしい~
聴くの久しぶりなんだけど…
子供の頃、歌った~)
「お正月には~
ももてつと~♪」
(ん!?
ももてつ?!)
「マリオカ~トで遊びましょ~♪」
(マリオカート!?
ゲーム!?
さっきの桃太郎電鉄!?)
「は~や~く~こいこい
キング~ボンビ~♪」
(ちょっと!
何、それ!
オリジナル!?
しかも…
キングボンビー呼んだら、
あのゲーム終わりじゃないの?!)
「パパ、おうた上手~
マリオカートも上手~
でも桃鉄は下手~
いつも借金3兆円~」
(さ、さ、3兆円!?
そんなの返せないでしょ!?
途中で何とかできなかった?!)
「優くん。
明日はお正月だから、
みんなで遊ぼうね」
(パパ、メンタル強っ!
いや、わざと負けてあげてる?
優しいお父さんなのかも…)
「パパ。
あれ、うたいたい」
「なに?」
「ぴーぷーの歌」
「いいよ。
いつものあそこは、優くんやるのね」
「うん。
ぼくがする」
「よし、じゃあ行くよ~
せ~の
垣根の垣根の曲がり角~
焚き火だ焚き火だ 落葉焚き~」
(これ童謡の…
これも歌ったことある~
落葉焚きって…
大人になるまで…
おちば滝って、滝だと思ってた。
そういのあるよね~
うさぎ美味しいって思ってる人…
必ずいるよね~)
「あ~たろうか~」
「あたろうよ~」
(ここは重唱なんだ~
息ピッタリじゃない~)
「き・た・か・ぜ」
「ふぃーふぃー」
「吹いている~」
(??)
「アハハハ」 「アハハハ」
「優くん、ピープーだよ。
ふぃーふぃーってなに?」
「だってまだ、
じょうずにふけないんだも~」
「もっと口をすぼめないと。
でもパパ、
優くんのそれ好きだけどね」
(なるほど~
北風…ぴいぷうのとこだけ、
口笛でやろうとしたのね。
それがわかると…
ちょっとさっきの…ジワる)
「もう1回、歌う?」
(止めて!
それ、わかってて聴くと、
私、絶対笑っちゃうから!)
「パパ、つかれた~」
「そっか。
だいぶ歩いたからな。
少し休もうか」
「うん」
(よかった~。
こんな人混みで大爆笑は勘弁して~
北風ふぃーふぃーはヤバいって。
しかも、生ライブはダメよ。
でも、口笛って大人になると、
吹かないよね~
最後に吹いたのって、いつ?
私そもそも…
口笛吹けたっけ?
北風ぴいぷうって、
そんなに難しいの?)
「ふっ…
ふっ…ふっ…
ふっ…ふっ…ふっ…」
(あれ?
音が出ない…
私…口笛吹けない?
北風ぴいぷうでしょ?
き・た・か・ぜ…)
ぱぁ~ぷぅ~!!
(!!!)
ギロッ ギロッ ギロッ ギロッ
ギロッ ギロッ ギロッ ギロッ
ジーー ジーー ジーー ジーー
ジーー ジーー ジーー ジーー
(ヤバいヤバい!!
変な音、出た!!
ハズいハズい!!)
私は…
アスファルトを…
切りつけるように走り抜けた。