最期の晩餐
受付の女性。
「田中様。
登録手続き完了です。
簡単にこの施設について、
ご説明します。
ここは…
あの世へ行く前の、
準備をする場所になっています。
ここであなた様には…
いくつか、
やっていただかないと、
いけないことがございます。
そのひとつとしてこれから、
最後の晩餐の選択をして頂きます。
あなたの人生の中で、
最後に食べておきたい…
これを食べれば、
心置きなくあの世へ旅立てる…。
それを今から選んで頂きます。
そこに記述用紙とペンがございます。
記入次第…
あそこの食堂のおばちゃんに、
お渡し下さい。
ただしお残しには厳しい方ですので、
食べ残しなどしないよう、
量にはご注意を。
最後の晩餐、実食後は、
あの世へ持っていきたい
エピソード選びとなっております。
それは創作室で行いますので、
2階へお上がり下さい。
ここまでで、
ご質問ございますか?」
「大丈夫っす」
「では、そちらの席でご記入下さい」
記入用紙とペンを持って座る男性。
「なんだよ~最後の晩餐って。
普通さあ…
こういうのって、
生きてるうちじゃねえの?
死んでから腹満たすって、
意味分かんねえ。
あ~かったりぃ~。
いまさら何だっていいだろ…
食いもんなんて…。
………。
何にすっかなあ~。
カレーでいっか?
オレ…いっつもカレー食ってたし。
そういや、
学食、毎日カレーだった!
それで週末だけ、
特別にカツカレー!
あれ美味かったなあ~。
よし、あのカツカレーにしよう!」
男性は記入した用紙を、
食堂のカウンターに提出する。
「あいよ。
ちょっと待ってな」
5分後。
「あいよ!
カツカレーお待ち!」
男性は…
トレーに乗ったカツカレーを、
テーブルまで運ぶ。
「これだよ、これ!
この感じ!
しかも、何だよこれ!
トレーと食器まで一緒じゃねえか!
この先割れスプーンも懐かし~!
それにこのカツ!
一口サイズで食べやすいし、
美味いんだ、これが!
この赤くない福神漬の甘さが、
カレーにピッタリでさ!
よし!
いただきます!!」
男性はカレーを食べ始める。
ひとくち口に入れては、
感嘆の声を上げる。
「ふうふう…
ズルズル!
………
ふうふう…
ズルズルズルーー!」
男性の隣のテーブルでも、
食事をしている男性。
「あれって…
まさか……
カップヌードル!
あれって、
ここで作れんの?!
超…
美味そうなんだけど…」
「ズルズルズルズルーー!
ズルズルズルズルーー!」
「ちょっといい?」
「はい?
何ですか?」
「それってあんたの、最後の晩餐?」
「そうですけど」
「カップヌードル好きなの?」
「はい。
この醤油ベースのが大好きで、
生涯…何百個食べたことか…。
でも高血圧になってからは、
妻に止められて…。
結局、食べれないまま…
それがとっても名残惜しくて。
試しに書いてみたら、
こうやって出てきたんです!
これがまた食べれるなんて…
もう感動です!!」
「あのさ…
それ、ちょっとわけてくんない?」
「はい?」
「あんたの食ってるの見たら、
オレも食べたくなってさ。
オレのカレー少しやるから、
ちょっとだけ食べさせて」
「嫌ですよ!
これは僕の最後の晩餐です。
あなたもカレーを頼んだんでしょ?
じゃあ、それを食べて下さいよ」
「堅いこと言うなよ。
2本…いや1本でもいいから、な?!」
「嫌です!
昔そう言われて、
友達におすそ分けしたら、
大事に取っておいた、
謎肉とエビ食べられたんです。
だからお断りします!」
「チッ!
…バレたか!」
「いま、ちっちゃく、
バレたかって言いましたね!
絶対、あげませんよ!
大事な大事な最後の晩餐ですから!」
「あ~くそ~!
オレもカップヌードルにしとけば、
良かった~!
その匂い~!
ちっくしょう~!
美味そうに食いやがって!」
「それは僕の勝手です!
それに美味いんですから、
美味そうに食べるの当たり前でしょ!」
「あ~あ~今、オレ…
カップヌードルの口になっちゃったよ!
どうしてくれんだ!」
「知りませんよ!
あなたが勝手に、
カップヌードルの口になったんでしょ?」
「オレのカレー…
あんた………
ほんとにいいの?」
「な、な、何がです?」
「これ入れると…
カレーヌードルに味変できるぜ」
「だったら最初から、
カレーヌードル頼みますよ!
でも…確かに迷いました。
これにするか、
カレーにするか、
チリトマトにしようか」
「チリトマト~!
あれ、超美味いよな!」
「そうなんですよ!
あの程よい酸味がいいんです!」
「わかる!
最初は…何だよイタリアン?
って、思ってたんだけど、
これがあの麺と、
ちょうどいいバランスで絡むのな!」
「その通りなんです!
しまった~~。
チリトマトにすれば良かったかな…」
「もういまさらだろ…
食っちまってるじゃねえか」
「そうなんですよね…
あれ?
あそこの人」
「ん?
なんだ…もうひとりいたのか…
ん!?
ちょっと待て!
何だ、あれ!!」
奥のテーブルで食事をする男性。
目の前には豪華な食事が。
二人は男性に近づく。
「ちょっと、あんた」
「はい?」
「何を食ってんだ?
ひょっとしてここの職員か?」
「いえ。
私はさっきの受付の人に言われて、
最後の晩餐を食べてるだけですけど」
「じゃあ、何でこんなに豪華なんだ!
おかしいだろ?!」
「何がです?」
「最後の晩餐って、
ひとり一品じゃねえのかよ!」
「いえ。
そんなことは言われてませんし、
どこにも書いてませんけど」
「え?!」 「え?!」
「私は食べたかったものを、
ここに書きました。
チーズカリーバーグディッシュ、
コーンスープ、
ふわふわ卵のケランチム、
つぶつぶ食感イチゴミルクに、
塩キャラメルプリンパフェ。
僕、これだけは食べたかったんです。
でもこれで思い残すことはありません」
「マジか!」
「まさか一品以上、注文できるとは!」
「オレも追加注文だ!」
「それなら僕もです!」
「オレはサーロインステーキと、
ミックスフライにエビドリア!
あとネギたま牛丼に、
ラーメン餃子半チャーハンセット!」
「じゃあ僕は、
欧風チーズカレーに、
北海道ミルクシーフード!
あと謎肉まみれ!
あとあと、
特上チリトマトヌードルも!!」
二人は見つめ合いハイタッチをする。
二人は目の前には、
先程注文した最後の晩餐が並び、
ご満悦な表情を浮かべる。
「最初から、
こうしとけば良かったんだよ、な?」
「そうですよね。
そうすれば、
ちょっとわけてなんて醜い争いも、
起こらなかったんですよ」
「よし!
じゃあ、食うか!」
「はい!」
「いただきます!」 「いただきます!」
二人は幸せそうに、
次から次へと食べ物を口へと運んだ。
口の周りにソースが付こうが、
ベトベトになろうがお構いなしに…。
やがて…。
「いや~食った食った」
「僕も初めて、
こんなにカップヌードル食べました」
「でもさすがに多かったな」
「ちょっと調子に乗りすぎましたね」
「でもオレは美味いもの食えて、
大満足だ!」
「僕もです!」
「じゃあ行くか!」
「はい!」
二人は席を立ち移動しようとする。
そこに黒い影…。
「ちょっと
………
………
あんたら…
………
………
………
どんなもんでも絶対!!
お残しは許しまへんデェ~!!」
「ひぃ~ー!!」 「ひぃ~ー!!」