こちら願い事 集計センター
女性職員二人。
「今年も来たねぇ」
「来たわねえ、この日が」
「毎年、ほんと凝りもせず」
「ほんとほんと」
「また今年も、
臨時職員として選ばれてぇ、
もう、やになっちゃう。
誰か代わってよ~」
「お互いこれで15年連続ね」
「そんなになるの~。
まあ私達も私達なんだけどね」
「そうね。
文句言いながらも、
ちょっと面白いって思ってるから」
「そうなのよ。
この短冊の願い事の集計って、
全くもって意味のない仕事だけど、
このひとつひとつ色々考えさせられたり、
楽しかったりするのよ」
「人の欲の部分だからね。
露骨なのもあって笑っちゃうよね」
「こんなことを秘密裏に国がやってるとは、
誰も夢にも思ってないでしょうね」
「こんな無駄なことに、
お金を使ってるってわかったら、
政権は袋叩きよ、きっと」
「でも人の願い事が、
国民の不満だったり、
こうあって欲しいという理想なら、
それを知るためのこの仕事は、
結構、的を射てると思うんだけど」
「まあリアルな世論よね。
でも実際、
エージェントを全国各地に配置して、
それをここに逐次報告するって、
これ考案した人って、
スパイ映画の見過ぎじゃない?」
「ちょっと中二病かもね。
エージェントも教育、医療機関、
介護施設とかの人、多いね」
「まあ人に携わるところよね、やっぱり。
でも教師と兼任の人とか、
保育士と兼任とか、
みんな多忙なのによくやってるよね」
「まあこの期間限定とはいえ、
みんな激務の中、ほんと頑張ってる」
「このせいで、
残業してないといいんだけど」
「この短冊の願い事の大半は、
子供と高齢者のものだからね」
「まあ会社員で書く人はいないかな。
子供がいるご家庭ならあるけど」
「でも、いっつも思うのは…」
「みんな、金だよね~」
「みんな、金だよね~」
「ほんと…
お金が欲しい。
宝くじが当たりますように。
パチンコ、競馬で儲かりますように」
「人生、欲まみれ」
「竹藪で1000万拾いますようにって、
毎年来るけど…どうなの?
あなたが毎日、
竹藪のゴミ拾いでもしてるっていうなら、
私がこっそり千円忍ばせても、
いいかなって思うけど」
「ほとんどが濡れ手に粟だもね。
これを頑張りますから、
これをお願いしますって、
ギブアンドテイクじゃなくて、
みんなギブだもね」
「まあ願い事を書けって言われたら、
それに従ってただ書いてるだけ、
なんでしょうけど」
「欲望のままにね」
「でも高齢者になると一気に、
健康についての願い事が増えるね」
「欲が削ぎ落とされてる感じがする。
まあ全部じゃないけど」
「体の部位を指定してくるのも多い」
「頭とか足とか腰とか…」
「この高齢者男性の、
髪がフサフサになりますようにって、
送る前に行く場所があると思うけど」
「まあ無料でってことじゃない?」
「さて。あらまし終わったし、
いつものやります?」
「恒例のやつね」
「決まってる?」
「もちろん!」
「じゃあ、せえので行くよ」
「いいよ」
「せえの」 「せえの」
「2番!」 「2番!」
「やっぱり!」
「でしょ!」
「これ一番よね!」
「私も読んだ時、思った!
これしかないって!」
「どこの子だっけ?
宮崎県日向市の陸空くん。
今どきの名前ね」
「毎年いるけど、
今年も願い事で感心させられた」
「僕の願い事は叶わなくてもいいので、
みんなの願い事を叶えて下さい。
くろき りく」
「良いというより凄いよね、この子」
「本当、この子の考え方、好き。
ファンになっちゃった」
「じゃあ、いいね」
「もちろん」
プルルルルル ガチャ!
「はい、宮崎支部です」
「すいません、総括のものです。
今年は宮崎県日向市の黒木陸空くんに、
決まりました」
「え~と…日向市の黒木…
りくは陸上の陸ですか?」
「それに空という字をくっつけて、
二文字でりくって読むみたいです」
「はあはあ、なるほどありました。
この願い事ですけど、どうします?」
「もちろんその子の願いを、
叶えてあげて下さい」
「他の人の願いを…」
「違うわよ。
その子の本当のお願いの方よ。
あなた達エージェントなら、
知ってるでしょ?」
「あ~はい。
そういうことですね」
「まあやり方はそちらにお任せしますけど、
商店街のくじ引きとかいいんじゃない?」
「そうですね。
この子の欲しいものには、
ピッタリの方法だと思います」
「じゃあ、あとはよろしくね」
「了解しました。
作業お疲れ様でした」
ガチャ
「終わった~」
「お疲れ様」
「そっちもお疲れ。
毎年大変って思うけど、
この終わった後の充実感が良いのよね」
「たったひとりの願いを叶える。
善き人には、
良いことが訪れて欲しいものね」
「その子の未来が、
幸多からんことを…願うわ」