夜明けのひとり
女性二人。
「ねえ」
「なに?」
「一緒に住まない?」
「嫌よ。
あんたの部屋キッたないじゃない。
よくゴミ袋を二桁も
溜められると思って逆感心よ。
あんたの部屋行った時、
私の胸の中でずっと…
警告アラーム、
鳴らしっぱなしだったんだから」
「え~~。
こう見えても尽くすタイプだよ」
「どこがよ!
絞り尽くすの間違いでしょ。
何で急にそんなこと言い出した?
ホームシック?」
「そうではないけど」
「じゃあ、何なの?」
「今のこの自由な生活は好きだけど、
誰かと住んでる良さも、
わかったきたというか…
親がしてくれてたことの有り難さが、
わかっちゃたんだよねぇ」
「それはわかる。
帰ったらご飯も洗濯ものも、
全部完成品で出てくるじゃん」
「そうそう。
あと部屋が環境汚染になったり、
生活環境を破壊してなかったり」
「それはあんただけよ」
「でも洗い物忘れても朝起きると、
誰かがやってくれてるじゃない。
全部してもらうのは私の甘えだけど、
半分でもやってくれたら、
それだけでも有り難いなあって」
「わかる。
今は何でも、
全部、自分でやらないといけないから。
全責任が自分にあるのツラい」
「だよね。
あと、あの楽しみがない」
「あの楽しみ?」
「あの…
家に帰ってふと開けた冷蔵庫に、
お宝が入ってること」
「アハハハ!
あれだよね~アイスとか!
プリンとか!」
「そう!
食べた後、怒られるけどね」
「あれは至福のひとときだよね~。
あと帰ったら愚痴聞いてくれる人が、
誰かしら居るって…」
「でもさ。
きっと実家に戻っても、
一週間ぐらいでまた鬱陶しくなるんだよ」
「ないものねだり…
これってただの我儘なのかな…」
「あと…
ひとりって怖くない?」
「何気に…怖い」
「だよね。
私なんかホラー映画苦手だし、
夜、明かり落とすとか無理なんだけど」
「激しく同意。
暗くして静かにしてると、
急に台所とか玄関の方で、
ガタ!って音するじゃん!
あれ…もうダメ!
でも音楽で誤魔化そうとすると、
もしかして気付かないうちに、
何かが枕元にいたらと思うと、
音楽も流せないしイヤホンもできない!」
「わかる~!!
だから私、ゴミ溜めてんの!
すぐ隠れられるように」
「え?!
あれって身を隠すために、
ゴミ溜めてたの?」
「そうだよ~。
あの中に潜れば、
助かりそうでしょ?」
「そんな展開…ありえるかなあ…」
「そしてついに…
最近あれが出るの!
…ジェイソン!」
「何?ジェイソンって?」
「知らないのジェイソン!
父ちゃんがね、
ジェイソンには気をつけろ!って」
「あんたお父さんを、
父ちゃんって呼ぶのね…
ってそれよりも、
ジェイソンって何なのよ」
「父ちゃんがホラー映画を観てから、
それが家に出るようになったって、
言ってた」
「それって貞子や、
フレディーとかいうのじゃなかった?
あっ!ジェイソンって…あれ?
観たことはないけど、
【13日の金曜日】とかいう映画で、
マスクしてる人?」
「ブブーッ!違うよ。
正解は、
【IT/イット THE END それが見えたら】
でした」
「それはペニーワイズでしょ!!
それ私も観たわ!
何でジェイソンなのよ!」
「父ちゃんが物凄く真っ青な顔で、
そう言ってた」
「意味わかんない」
「だってジェイソン動くんだよ。
音立てて…
こっちに向かってくるんだよ!!
ギャーーー!!」
「ちょっと落ち着いて!
だからジェイソンを説明して。
それはどんな風貌なの?」
「全身、黒尽くめ…」
「夜中に…黒尽くめは怖いね」
「でしょ…あとは動きが速い」
「そんなの逃げられないじゃん」
「そう…だから隠れるしかないの」
「それって、いつもどうしてるの?」
「隠れるだけ…何もしてない。
そして朝になったら消えてる」
「…どれくらいの大きさ?」
「う~ん…
親指よりちょっと大きいぐらい?」
「?
それって…飛ぶ?」
「何でそれ知ってるの!
そう急に飛ぶの!!
何も言わずに!!」
「それゴキブリでしょ!
何よ!ジェイソンって!!
あんたの父ちゃん何なのよ!」
「だって父ちゃんいっつも、
ジェイソンには気をつけろ!って!」
「さっきも聞いたわ!
あんたんちのゴキブリの、
ローカル呼び名、どうでもいいわ!
それより…」
「それより?」
「そんなに怖いなら…
…
まず掃除しな!!」
「…はい」