千載一遇に遭遇
タレント事務所。
面接室。
「ありがとうございました」
面接官の男女。
「いまの子はどう?」
「マニュアル通りって感じだな。
どこかネットに落ちてんの?
アイドル面接マニュアルとか?
好印象を意識付けたいのはわかる。
でもみんなが同じ受け答えだと、
不快でしかないよね」
「そうね。
本当に自分の言葉で喋る子って、
少ないわね。
全てを予習してきたような…
そんな印象ね」
「だろ?
言葉に詰まってもいいんだよ。
アドリブでもなんでも。
すぐ答えられるのは悪いことじゃない。
テレビでも瞬発力は必要だけど。
でもこれは面接。
人を見てるわけ。
あれだけ同じものを見させられると、
まるで人形でも選ばされてるような、
錯覚に陥るよ」
「あなた人形好きじゃない」
「フィギアな!
別にそこはどうでもいいだろ。
でも答えもこっちからすると、
ミエミエなんだよね。
好きな食べ物とか聞くと、必ず珍味。
おじ様好みの珍味を若い子が言うと、
テレビではギャップウケするからな」
「からすみ、鮭とば、貝柱は、
聞き飽きたわね」
「飲み屋じゃないんだから。
で、ちょっと掘り下げた質問すると、
そこは答えられないんだよな…。
個性個性って言ってるくせに、
結局は誰かの真似なんだよ。
自分自身で勝負をしてきてほしいんだよ。
こっちはそれを期待してんだから。
誰かっぽいとかそういうのは、
もう埋まってるから。
その枠は間に合ってるからって、
言いたくなる」
「それはわかるけど、
それだけ逸材ってのは、
そうはいないってことじゃない?
ゴロゴロいても変だし」
「まあ、それはそうなんだけど…」
「次の子で最後だけど、呼んでもいい?」
「もう最後か。
今回は厳しかったな…
入ってもらって」
「次の方、どうぞ」
「初めまして。
後藤美野里です。
よろしくお願いします」
「はい、よろしく。
では今からいくつか質問しますので、
テンポよくあまり考えずに答えて下さい。
よろしいですか?」
「はい」
「では行きますよ。
あなたの夢は?」
「白黒です」
(……)
「朝起きて一番にすることは?」
「目を開ける」
(……)
「あなたの利き手は?」
「お母さん」
(……その聞くじゃ…)
「学校での好きな教科は?」
「腹筋です」
(……強化?)
「あなたの苦手なことは?」
「意地悪する子」
(……子?)
「よく着るファッションの系統は?」
「モヘア?」
(…それ毛糸!)
「もし総理大臣になったら何がしたい?」
「仕事」
(……)
「無人島にひとつ持っていけるとしたら?」
「自分」
(……)
「スマホの待ち受け画面は?」
「割れてます」
(…プッ)
「寝る時の格好は?」
「うつ伏せ」
(…ププッ)
「好きな食べ物は?」
「お母さんが作る名前のない料理」
「もう合格!!」
「君を待ってた!!」
「ありがとうございます」