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褒美

××××年。
総人口は、
過去のピーク時の50%まで落ち込んだ
 
しかし介護の人材不足は解消された。
 
ヒューマノイドがその仕事を代行
介護は人の仕事ではなくなった。
 
とある施設。
ヒューマノイド2体。
 
「なあ」
「……」
 
「なあ、サナク
「なんだオズム。
 仕事中だそ」
 
「お前知ってるか?
 ヒューマノイド一体が、
 高齢者300人面倒めんどうみたら、
 人間になれるって話」
「それは人間でいうところの、
 都市伝説だろ?」
 
「いや実際、
 去年までここでリーダーだった
 アジカってやつは300人目で、
 急に姿を見せなくなったぜ」
「ただの偶然だろ?
 どこか転任されただけで」
 
「だとしても、
 300人目で行方ゆくえ知れずって、
 偶然にしても不自然だろ?」
「まあ300人目でというところには、
 少し違和感があるけど、
 規定きていメンテオーバーホール
 可能性もあるんじゃないのか?」
 
「まあ確かに、可能性はあるけど。
 でも不思議じゃないか?
 俺達、お互いのことよく知ってるよな?
 情報共有されてるから」
「ああ」
 
「なのに300人、面倒みたやつは、
 この中に一体もいない
 変だと思わないか?
 誰にもわからないんだ。
 どこで何してるのかも…」
「俺らに知らされてないだけで、
 寿命ということで処分
 
もしくはリサイクルされてるとか…。
 人間になるなんて俺達はピノキオか?
 ヒューマノイドが人間になるって…
 構造的こうぞうてきに考えても…」
 
「俺もそう思うよ。
 俺らに仕事の目標はない。
 ただ一部に人間のような感情が
 芽生めばえるやつもいるから、
 えてこんな噂話
 流してるんじゃないかと思ってる」
「なるほど。
 ご褒美目的の奮起ふんきうながすって作戦か」
 
「その話は一緒に広まってるようだから、
 恐らくはどっちかが後付の嘘だと思う」
ピノキオのおとぎ話よりも、
 意欲向上デマの方が現実的に聞こえるな。
 そもそも人間になりたがる
 ヒューマノイドっているのか?
 ここにいる高齢者を見てあこがれるか?
 人間の嘘に振り回されてるだけさ」
 
「やっぱりそうか…」
「そうだろ、どう考えても。
 もうすぐ上がりだ。
 あとは任せたぞ」
 
「ああ、お疲れ」
 
サナクは施設から自宅へと帰る。
 
サクナはここに住んで2年。
 
人が住まなくなった空き家を、
ヒューマノイドが維持管理する制度のもと、
この家を与えられた。
 
住宅用資材不足で新築価格が高騰こうとう
 
結果…、
中古住宅の重要度が増し、
需要じゅようもずっと高止たかどまったままだ。
 
それを支えているのが、
ヒューマノイドの住宅維持活動
 
サクナは庭の手入れや、
細かい家の補修ほしゅうも行っている。
 
そして…、
この家にはがいる。
 
庭に迷い込んだ老猫ろうびょうだが、
いつの間にか家に上がり込み、
居座ってしまった。
 
サクナは何度か追い出そうとしたが、
老猫のふてぶてしさにはかなわなかった。
 
サクナはこの猫を、ミーと名付けた。
 
帰宅時間はちょうど、
夕方のエサの時間。
 
皿にいつもの
消化のいいエサを入れる。
 
ミーはすぐに食べ始めるが、
二口ふたくちほどでミャ~と鳴くと、
部屋に戻っていった。
 
サクナも一緒に部屋に戻り、
ミーの隣に座る。
 
「ミー。
 もっと食べないと。
 少しせてきてるぞ」
 
そう言ってミーの体をでた。
 
「食欲がないのか?
 仕方ない。
 今日は特別なおやつをあげよう」
 
ミーは袋からニュルニュルと出てくる
キャットフードをペロペロと舐め始める。
 
「……これだと食べるんだな…
 
 ミー、どう思う?
 ヒューマノイドが人間になる話…。
 
 そんなことがあり得ると思うか?
 
 実は…俺もあと5人で300…。
 何が…起きるんだろうな?」
 
ミーは全部めあげまた鳴いた。
 
それから1ヶ月
 
この家にミーはもういない。
ミーはってしまった…。
 
サクナは高台の、
見晴らしのいい場所にミーを埋葬まいそうした。
 
そしてその翌日。
300人目の利用者が施設にやって来た。
 
サクナはすぐ異変に気づいた。
 
自分の変化に…。
 
今までなかった、
設定項目が増えている。
 
サクナはそのことを、
誰にも話さず帰宅。
 
玄関を開け立ち尽くし…
あたりを見渡す。
 
家は…
静寂せいじゃくに包まれていた。
 
柱のかげから…
ミーが顔を出すこともなかった。
 
サクナはそのまま玄関で…
追加された設定をONにした。
 
……。
 
数分後、
2名の人間が家にやってくる。
 
彼の体を収納箱に入れると、
車に積み込み、足早にその場を立ち去る。
 
助手席の女性が話し出す。
 
「どうしてなんでしょうね?」
「お前…わかんないのか?」
 
「わかりません。
 だって彼らは望めば何年だって、
 パーツ交換で生きられるんですよ。
 それなのに何で死を選ぶんですか?」
「それがわからないのは、
 まだお前が若いからさ。
 俺もお前くらいの時に、
 まんま同じこと言ってたよ。
 でも最近は人生なんてほどほどぐらいが、
 ちょうどいいのかもって思えてきた」
 
「だとしても、
 彼らが人生にきるとは思えません」
「まあそうだな。
 だが特に病院や介護施設で働いた
 ヒューマノイドの80%は300人目で、
 この選択をする。
 より人の生死いきしにに近い現場だ。
 彼らなりに考えての結論なんだろうさ」
 
「彼らが独自の死生観
 持ったということですか?」
「独自じゃねえだろ。
 人間だって同じだろ?
 ただあいつらは、
 勝手に死ねないだけで。
 だから300人目に、
 死を選ぶ権利を与えてるのさ」
 
「わざわざそれを組み込んだ意味は?
 彼らはいくらでも働けますよ」
「まあ、ある年老いたおえらいさんが、
 とあるヒューマノイドに助けられて、
 とても感謝したんだと。
 でも、彼は人の死に寄り添う仕事を、
 永遠に続けなければいけない。
 その身をあわれんで
 ヒューマノイドに終焉しゅうえんを与えたのが、
 2代前の内閣総理大臣さ」
 
「まあ悪いことではありませんが、
 あんな高価なヒューマノイドを処分なんて
 税金をドブに捨ててるようなものです」
「でも、その法案に反対する政治家は
 1人もいなかった
 ヒューマノイドにも尊厳そんげんを…
 俺が生きてきた中で
 政治家が一番まともな仕事をしたと
 思ったけどな」
 
「私には…わかりません」
「無理にわからなくてもいいよ。
 よし、もう着いた」
 
車を降りると、
そこは海が見える高台
 
そして…
 
高台には、
盛り土に小石で装飾された墓のような一角。
 
そしてその隣に…。

人名きざまれた墓標ぼひょうが並んだ。
 
安楽アンラク 朔梛サクナ
 

 このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。

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二月小雨
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