階段を昇る女
私は嘘が嫌い。
でも世の中は嘘で溢れてる。
私は嘘を見過ぎたんだ…きっと。
大量に流れてくる…
知らなくてもいい虚実…。
そして…
私はSNSを止めた。
最新情報に拘らないことにした。
経営者でも株トレーダーでもない私に、
速報なんて必要ない。
この国で起きた事件やゴシップを、
8時間後に知ったところで、
私にデメリットもない。
私はこの2年、
そういう生活をしてきた。
仕事中ソワソワしなくなったし、
こうやって買い物してても、
全くスマホを気にしなくてもよくなった。
スマホの通知音に、
一喜一憂してた自分は、何だったんだろう?
そしてフェイクニュースに、
心をかき乱されることのない平穏な日々。
「あ~心が軽い~。
前は私もああやって、
ずっと下向いて歩いてたんだよね」
通り過ぎる人はみなスマホに夢中。
耳にはイヤホンをし、
こちらをチラリとも見ることはない。
「あれが昔の私。
でもあれが普通だったんだよね。
何か不思議…。
なんだろう?この気持ち…。
禁煙に成功した人って、
こんな感じなのかなぁ…。
一度吸って大人になって、
吸わなくなったことでさらに、
大人になったような感覚…。
また階段をひとつ上がったような、
そんな感じ…」
私は次の目的地の、
ショッピングモールに着いた。
「なんだろう?
今日、ちょっと人がザワついてる。
イベントでもあったのかな?」
楽しそうな人たちを横目に、
大好きなブランドのお店へ。
「こんなに暑いのに、もう秋物がある。
そうだよね。
お盆過ぎればいつもなら、
ちょっと涼しくなるんだから、
当たり前か」
すると奥から満面の笑みの店員さんが、
もうひとりの店員に駆け寄った。
(?)
「チーフ!ちょっと見ました?!」
「何を?」
「ほら◯◯◯◯電撃結婚ですって!」
「え?!ほんと!!
うわ~ショック~!!」
「ですよね~。
全然、そんな素振りなかったから、
私も油断してたぁ~。
スキャンダルもなかったですよね?
も~私ショックで無理です…
今日もう帰っていいですか?」
「ダメよ!
あなた今、休憩中でしょ。
私も明日休みたいくらいなのに。
でも警戒してない人のニュースって、
突然聞くと…心臓止まりそうになるわね」
「さっきのチーフの顔は、
ちょっとヤバかったですよ」
「ほんとに?!やだ!」
「あ~誰か他にいないかなあ。
このニュースを知らない人…
驚いた顔、見たいなあ…」
楽しそうに話し込んでた店員さんが、
私の元へやってきた。
「あの~
よろしかったらご試着どうぞ~」
「は…はい…」
「あの~」
「はいっ!」
「◯◯◯◯の電撃結婚のニュース、
見ました?」
「はい。
さっき知りました。
ビックリですよね!」
「そうですよね。
まさかですよね…」
(私は嘘をつかない…
けど…
また大人の階段を、
ひとつ昇ったような気がした)
そして…
そっとスマホを取り出す…。
先は遠い…。