あなたの恋愛観察日記
放課後。
男子生徒二人。
「おっと!
まだ残ってたんだ。
あっ今日、日直か。お疲れ」
「いや、何か色々してるうちに、
遅くなっただけなんだけどさ…」
「何してんの?」
「おっと、これは内緒のやつだ」
「内緒って何?それノート?」
「だから内緒のやつなんだって」
「ん?交換日記?」
「バレた?」
「いや、お前見せてきたよね、いま!
隠そうともせず」
「いや~バレたらしょうがない。
実はさ3組のさくらさんと、
交換日記してるんだよね~俺」
「聞いてねえよ…って、
え?!お前、3組の遠藤さくらと、
付き合ってんの?!」
「いや~付き合うっていうかなんというか、
毎日…あれやこれや、
楽しいことはしてるけど」
「何だよそれ。
絶対やってない奴の、
やってる風思わせぶり自慢」
「羨ましい?」
「何でお前が、
マウント取ってくるんだよ。
あっ、俺、忘れ物取りに来ただけだった。
じゃあ佐藤、俺帰るわ」
「待て待て。
今から学級日誌を職員室に、
届けに行くところなんだ。
一緒に行くよ」
「ひとりで行けよ」
「職員室は下校口に行く途中だろ。
お願いだ。この通り。
僕の交換日記話、聞いてくれ。
職員室まででいいから」
「自慢したいだけじゃねえかよ。
何だよ、その交換日記話って」
「お前、交換日記知ってる?」
「やったことないし、名前しか知らないよ」
「いいかい?
交換日記マスターの僕が、
交換日記童貞のお前に、
交換日記とは何たるかを、
丁寧にレクチャーしてやるよ」
「お前の浮かれた感じ、腹立つな」
「まずな交換日記っていうのは、
相手がいないと始まらないんだ」
「そっから始めなくていいよ!
大体はニュアンスでわかるよ。
あれだろ相手とノートで、
文章のやり取りし合うんだろ」
「その通り!
今日は何食べた?
好きな本は何?
聴いてる音楽は?
何にハマってるって、
個人情報聞き放題なんだぞ」
「そんなのSNSで済むだろ」
「はい!わかってない!
交換日記の良さ、全然わかってない!
いいか?
チェリーボーイにもわかるように
説明するからよく聞けよ。
確かにやってることはただの情報交換。
だがこのノートでやり取りしてる部分が、
重要であってラグジュアリーなんだ」
「その言葉遣い合ってる?」
「いいから聞け!
まずこのノート。
これは二人しか見れないアイテムだ。
二人以外は何人もこれを読めない。
よく考えてみろ。
SNSなんて誰が見てるか、
わからないと思わないか?
データを管理する会社があるんだぞ。
こっそり人のSNSのやり取りを見て、
楽しんでる人間が、
いるかもしれないだろ?」
「監視検閲はプログラムじゃないの?
そもそもお前の情報なんて見たって、
何の得にもならないだろ」
「まあそうだったとしても、
誰にも見られていないとは、
言い切れないだろ?」
「まあ確かに…」
「おっと職員室だ。
ちょっと待っててくれ。
学級日誌を置いてくるから」
「お前、話は職員室まででいいって、
言ってたじゃないか」
「話が中途半端はよくない。
待っててくれ」
佐藤は学級日誌を、
担任の机に置いてくる。
「何なんだよ、あの浮かれようは」
「どこまで話した?
そうそう、情報の機密性だ。
交換日記はSNSとは違う!
この日記は、
さくらさんと自分だけの共同所有物。
誰も覗くことが出来ないシャングリラ」
「何だよ、シャングリラって」
「言うなればエデンの園!
このノートの中は神聖な不可侵領域。
この中ではさくらさんと僕は、
アダムとイヴなんだよ」
「どんどん言ってることが、
気持ち悪くなるな、お前」
「何とでも言え。
このノートを僕が3組に持っていく…
すると僕はすいません、さくらさんはと、
近くの生徒に尋ねる。
その生徒に呼ばれたさくらさんが、
恥ずかしそうにこっちに来る。
みんなは何事かと二人に注目。
そして僕はこっそりさくらさんに、
ノートを手渡す。
クラス全員が僕らに注目!
その視線を全身に浴びてる間の優越感!
これは交換日記でしか、
味わえないのだよ未経験坊や」
「お前、何かおかしくない?」
「何がだ?!」
「優越感て何?」
「知らないのか?
それはみんなから羨ましがられて、
ちょっと誇らしい気持ちになることだよ」
「それ必要?」
「何が?」
「俺だったら自分の彼女が、
クラスの人気者だったら、
ちょっと心配になるけどな。
同じクラスでないなら尚更」
「それは…」
「それに彼女と付き合ってることを、
自慢したいのって付き合うことが、
目的じゃないんじゃねえの?
好きな人と付き合えらたそれだけで、
嬉しいとか幸せだなあって思うけど」
「……」
「恋人を自慢したいって気持ちって、
それは彼女を自分の飾りと、
勘違いしてるんじゃないの?」
「そ、そ、そんなことは…」
校内放送。
「え~呼び出しをします。
2年1組の佐藤。
至急、職員室まで来るように」
「呼び出し、僕?」
「じゃあ佐藤、俺は帰るよ。
彼女待たせてるから」
「へ?」
下校口で待ってた女生徒が駆け寄り、
二人は楽しそうに帰って行った。
「…」
職員室。
「失礼します。
先生、何ですか?」
「佐藤。
お前、今日、日直だよな?」
「はい」
「お前、学級日誌と交換日記、
間違って置いてったろ」
「はぅあっ!え?!あっ!
えっと!これはですね!
何と言いますか~!」
「お前、3組の遠藤さくらと、
同じ環境係だったんだな。
わざわざノートで成長記録
つけてたなんて知らなかったぞ」
「はあ」
「でもそんなのSNSでも、
できるんじゃないのか?
花の写真だって簡単に撮って、
共有できるだろ」
「そうですよね。
検討してみます。
ありがとうございます。
失礼しま~す」
職員室を出る。
「だよなあ。
さくらさんノートつけること、
同意してくれたけど、
正直どう思ってんだろ?
ほんとこのノート、
ただの植物観察日記なんだよなあ。
……脈なしなのかなあ。
そうだ!
あいつに恋愛相談してみよう!
帰りに新しいノート買っていかないと!」
お疲れ様でした。