キレる?
昼休み。
男性会社員。
(昼は弁当にしよう。
あとは別売りのサラダと、
お茶でも買おう…)
会社の近くの弁当屋に入る。
客は自分の前にひとりだけ。
最近は向こうの通りに、
キッチンカーが来るようになり
社内でもそっちで買う人が増えた。
(前は必ず社内の誰かと、
鉢合わせしたんだけど…
客が分散されたんだな。
まあうちの会社、
お昼休憩45分だから、
待ち時間が少ないのは助かるわ…
というか前の人、長いなあ…
何、手間取ってんの?)
「このクーポンは…
つ……ま…か…」
「こちらは……が切れて……て、
つ……ま……」
(この二人、何を喋ってんの?
何か店内、うるさいんだけど)
ブオーーという、
風の吹き出すような音。
店内を見渡すと、
空調の音かと思われたのは、
カウンターの横にある
冷蔵ショーケースの作動音だった。
(今どき家の電化製品でも、
こんな音、出ないんだけど。
上に温度が表示されてる…ん?
19℃?高くない?
あ~なるほど。
だから一生懸命温度下げようと、
こんな必死に動いているのか。
そういうことね。
もしかして電源入れ忘れたのか…)
そんなことを考えていると、
やっと前の客が支払いを終えたようで、
両手に弁当を持って外へ出ていった。
「いらっしゃ…ませ、…うぞ!」
「え~と、か…あげ弁当…とつ」
「かきあげ弁当、おふたつですね!」
「違い…す。から…げ弁…ひ…と…つ」
店員に対してメニューを指差し、
人差し指で個数をアピールする。
「からあげ弁当、おひとつですね!
600円です!」
「…ディーで」
「ディーですね!
こちらの端末でお願いします!」
スマホを端末にかざす。
……
……
……
もう一度、かざす。
……
……
……
(あれ?)
「すいません!
これdポイントですけど!
エディーでお願いします!」
「エディーですね!
…どうぞ!」
シャリーン!
「少々お待ちください!」
(何かさっきの客が、
手間取った理由わかったわ。
無駄にカロリー消費した…。
あのショーケースの音、
うるさいんだよ、まったく……
あ~ほら~余計なこと考えてて、
サラダとお茶買うの忘れてたよ。
もう一回、あのやり取り疲れるんだけど…
しょうがないかあ…)
冷蔵ショーケースの前に行くと、
男性は立ち尽くす。
サラダも…
ドリンク類も…
ショーケースには何もない。
ショーケースは相変わらず、
激しい音を撒き散らしている。
設定温度は…
いつの間にか23℃に。
そして真ん中に小さな張り紙。
【故障中】
(だったら電源…切ろうよ)