今なの?
ドアの前。
男性社員。
(どうして僕が…
こんなことに…。
でも…
こうなってしまった以上…
仕方ない…。
腹をくくれ…
これから何が起きようと…
行くしかないんだ…オレ!)
………。
「す~~~
はぁ~~~」
………。
「よし!」
コンコン!
「………」
コンコンコン!
「…はい」
「社長…
………
………
………
おトイレ中、すいません」
「田中くんか?
………
今じゃないと…ダメかな?」
「はい。
急ぎの件でして…
すいません」
「ちょっと…
話しかけられながらは、
やりづらいねぇ…」
「重々承知の上です」
「そんな急ぎなの?
用を足すまで待てない?」
「はい、社長。
緊急案件です」
「あと5分ほどでいいんだけど…
それも…待てない?」
「はい。
1分1秒を争います」
「あっ、そう。
君がそこまで言うなら、
余程のことだね。
わかった…
このまま要件を聞こうじゃないか」
「ありがとうございます。
実は…
………
誠に…
………
申し上げ…にくいのですが…
………
………」
「田中くん。
急ぎなんだろ?
早く、言いたまえ」
「はい…
すいません。
………
す~~~
はぁ~~~
………
大丈夫です…はい。
言います。
………
実は……」
「実は?」
「社長の…
………
………
不倫…バレました!」
「ふん!はぁぁ~~ぁぁぁぁ…」
「大丈夫ですか、社長!」
「ビックリしすぎて、
引っ込んじゃったよ、田中くん!
そ、そ、それに…ど、ど、どうして…
そ、それを…き、君が知ってる?!」
「先程…
社長の奥様が…」
「なに!!
妻が?!
妻と話したのか!?」
「いえ。
会社に来られて」
「来てるのぉ!?
会社にぃぃ!!」
「はい。
そして…
受付の女性を…
しばきあげていたので…」
「ヤバい!!
マズイマズイ…
マズイマズイ…
ヤバイよ!
田中くん!!
妻は総合格闘技を習ってるんだ!!」
「存じ上げてます。
さっき…
受付ロビーで…
見事な三角締めを拝見しましたから」
「嗚呼ぁぁぁ~!!
ごめんよ~みきちゃ~ん!!
妻の寝技は最強なんだよ!!
私も何度、
自宅のベッドで、
落とされたことか…」
「受付の子も、
いま医務室のベッドの上です」
「みきちゃぁぁぁ~~ん!!
………
どうしよう田中くん!?
………
そうだ!!
……逃げよう…
………
逃げるしかない!!
逃げるが勝ちだよね、田中くん!!」
「いえ、どうやら…
社長の負けです。
私も現場を見て一大事と、
ここまで最短距離で来ました…
しかし…私の力及ばず…
社長……残念です。
判断が遅すぎました」
「遅すぎた…?」
「はい。
あと1分早ければ…
すいません社長…
お役に立てず…」
「何を言ってるんだ田中くん!
まだ、大丈夫だ!!
もう出るものも出なくなったし、
いますぐ出るから!!
君は私の警護を頼むよ!!」
「………」
………。
「あ~~~な~~~た~~~~」
「ヒッ!
ヒィィィィィーーーー!!!!」
「誠に…
残念です…社長…
錆が…出ちゃいましたね」