思い合いだよ自販機は
中途採用の男性。
総務の女性が社内案内中。
「ここが社員食堂になります。
田中さんは昼食は?」
「前は弁当をだったんですけど、
先月から共働きになったので、
食堂を使おうかと。
メニューも豊富で美味しそうだし」
「うちは8割の社員が利用してます。
物価高で弁当を作るメリットが、
減ったのかもしれないですね。
それにコンビニ弁当も、
高くなりましたよね」
「はい。
弁当も作る手間のことを考えると、
この値段はお得で助かります」
「是非、利用して下さい」
「はい」
「では次、行きましょうか」
「はい」
「田中さん、おタバコは?」
「いえ、吸いません」
「そうですか。
一応、ここが喫煙室になってます」
「オフィス内にあるんですか?」
「珍しいですか?」
「以前の会社は、
完全に外だったもので」
「そういうところもありますね。
うちはわざわざ外に行くのは、
逆にストレスになるだろうと、
各フロアーに2ヶ所ずつあります」
「へえ~。
喫煙者に優しいんですね」
「社員のストレス軽減は、
社長の意向なんです。
タバコはストレスがあるから吸うんだろ?
ってよく言われてます」
「私も社長の雑誌のコラム見ましたが、
優しさに溢れてますし、
寛大な方ですよね」
「はい、そのまんまの方です。
あっ、そしてここが休憩スペースです」
「広いですね」
「フリースペースとも言いますね。
ここでミーティングをする社員もいます」
「ほどよく空間が仕切られているし、
緑もあって落ち着きますね」
「ここは、飲食も自由です」
「いいんですか?」
「もちろんです。
まあミーティング中に食事とかは、
ちょっと困りますけど…」
「さすがにそれはないでしょ」
「まあ常識の範囲ということで」
「そうですよね。
わかりました」
「そしてここの自販機で、
飲み物やお菓子や軽食が、
購入できます」
「お菓子の数も凄いけど、
パンにハンバーガー、
麺類も種類が豊富ですね。
唐揚げとかホットスナックまで。
まるで無人コンビニじゃないですか」
「社員の要望でこうなりました。
ここに書いてありますけど、
入れて欲しい商品を、
メールで応募すると、
置いてもらえることがあるんです」
「自分の好きなものを?
これまた優しいですね。
これは嬉しいですよ。
個人でもいいんですか?」
「個人で大丈夫ですが、
グループで話し合って、
応募してるみたいですよ。
恐らく5人ほど要望があれば、
入荷すると思いますから」
「何か…いいですね。
私も早く馴染んで応募したいです」
「是非、奮ってご応募下さい。
そしてこの隣りにある自販機が、
社長のおごり自販機です」
「社長のおごり自販機?」
「これは社員2名が、
同時に社員証をかざすと、
それぞれに飲み物が無料で提供されます。
全国では200社ほど、
導入されてるようです」
「全然、知りません。
そんなに普及してるんですか?
この自販機。
でも、無料って大丈夫なんですか?」
「はい。
社長のおごりなので。
福利厚生の一環です」
「ほんとに、
社長は社員思いの、
優しい方なんですね」
「それがうちの社風にも影響してます。
人に優しくされると、
自分も誰かに優しくしたくなる。
そういう感じですかね」
「あ~よく車の合流で入れて貰えると、
自分も次の合流で譲りたくなります」
「そういうことです。
この自販機のおかげで、
知らない部署の人とも、
繋がりができたりしてるようです」
「なるほど。
知らない社員とも自販機によって、
交流が生まれたりするんですね」
「はい」
「すいません。
この隣のひときわ目立つ、
真っ赤な自販機は何ですか?」
「これはシャチョ専用自販機です」
「何か、ガンダムみたいですけど」
「すいません、それっぽく言ってしまって。
これは社長専用自販機です」
「今度は社長専用ですか?
社長はお一人ですし…
これは、どういったものなんです?」
「これは社長の、
好きな飲み物しか出てこない自販機で、
社員が10人集まって、
社員証をかざすと飲み物が出てきます」
「無料ですか?」
「いえ、これはその10人で、
割り勘になります」
「?
これは誰が設置したんですか?」
「もちろん、社長です」
「え?
何のために?」
「自分も奢られたいって、
社長はおっしゃってましたが、
どうやら別に目的があるようで」
「別に?」
「社長と直接、
話しがしたい人用だと思います。
私たちでも社長と話す機会は、
年に1、2回です。
なのでもっとご自身と社員の距離を、
近いものにしたかったんじゃないかと、
勝手に解釈してます」
「なるほど。
この自販機を使えば、
社長に飲み物を持って行って、
そこで会話ができるんですね」
「そしてこの自販機は、
社長が不在時はこうやって、
稼働してません」
「ほんとだ。
電源が入ってない」
「社に戻られると電源が入って、
社長がいることを、
知らせてくれるんです」
「何か社長が、
身近に感じられますね」
ブオーーン
「ほら、社長が戻られました!」
「電源点いた!」
「来ますよ」
「え?!」
ひとつの集団が、
自販機に向かってくる。
10人が一斉に社員証をかざすと、
温かい飲み物が出てくる。
「じゃあ、代表して行ってくるね」
9人に見守られて、
ひとりの女性社員が社長の元へ。
「何か…
いい会社だなあ~」
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