暗闇の中で紡いできた、ひなたの道『カムカムエヴリバディ』感想(ネタバレあり)
半年間、ずっと見続けてきた朝ドラ「カムカムエブリバディ」が終わった。カムカム最終回の余韻に浸りながら、とても幸せな気持ちでこれを書いている。
確かに終わったのだという満足感を味わいながらも、終わったような心地がしないような気もしている。「あなたの物語はまだ続いていくのよ」そう言われたような気がした。
街中にひょこっと現れてきそうな、親しみやすい彼らは、気づけば私にとって家族や親戚のような存在になっていた。
昨日、111話を見た後の私は涙脆くて、泣きながら感想を書き綴っていた。昨日は泣かせる回、今日はほっこりとした気持ちで、笑顔で終えられる回だったように思う。最後に「またね」と明るく笑顔で終わるところが、ひなたらしいような気もする。
「笑って、愛しい人」
毎回、朝ドラのの始まりに「アルデバラン」が流れると、いつもふんわりと包み込んでくれた。この曲の素晴らしいところは、それぞれの登場人物の物語にも重なるところだ。きっと見ている視聴者の、それぞれの物語にも、重ね合わせることができるだろう。
私は朝ドラのオープニングをぼんやりと聞きながら、サビの部分の歌詞が、安子ちゃんと稔さんの二人の姿が重なって感じた。稔さんから安子への祈りのように思えてきたのだ。
「笑って、笑って、愛しい人」という歌詞が、稔さんが安子に向けた祈りのようにも思える。これから彼女が日向の道を歩いていけるように。
最後、安子をひなたの道へ導いてくれたは、孫である「ひなた」だった。彼女は逞しく安子を引っ張って、るいの元へと連れていく。
この物語には「安子」「るい」「ひなた」3人のヒロインの物語。安子の物語はまだ終わっていなかった。
「日向の道を歩いてほしい。それはるいだけじゃなく、安子にも___」そんな稔さんの祈りが届いたかのように、安子はひなたに導かれながら、「日向の道」をまた歩くことができた。
これは、もしかしたら、稔さんの祈りが届いたかのように思えた。稔さんが直接言ったわけではないけれど、ロバートさんの台詞を通じて、きっとそうだったらいいなあと、私は感じた。
On the Sunny Side of the Street
「On the Sunny Side of the Street」は、稔さんを失った安子に「日向の道を生きていこう」と思わせてくれた曲だった。その曲を、安子の娘のるいが、同じステージで歌唱する。安子と同じステージを見ていたミュージシャンの夫・ジョーとともに。
111話(最終回の前日)のアニーさんは、アニーさんとして話している時よりも、今回のアニーさんは喋り方がずっと穏やかに感じた。岡山にいた頃の安子ちゃんの喋り方だなあと感じた。安子ちゃんの若い頃のほわほわした優しい雰囲気がそのまんまで、すごく好きだ。
「日系アメリカ人のアニー・ヒラカワさん」じゃなくて、「安子ちゃん」が戻ってきたような感覚を覚えた。るいと再開して仲直りできたことで、ようやく彼女は「安子」に戻ることが出来たのかもしれない。
安子とロバートのシーンの、二人の笑顔を見て、私は心を撫で下ろした。二人はちゃんと、ひなたの道を歩いてこれたのだ。
お互いに愛するパートナーを失った者同士、理解し合いながら、幸せに過ごしてきた。穏やかな、柔らかいこの一瞬の二人の表情が、全てを物語っていた。
「アニーさん」はるいと向き合うこと、何より「安子」という自分と向き合うことから、ずっと逃げてきた。
アニーさんがラジオで安子として過去を告白した時、閉じ込めていたはずの「安子」の苦しみや葛藤が湧き出てきた。
そこには、今まで表面に出ることのなかった、安子の葛藤があった。これまで安子が、過ごしてきた時間や抱えてきた感情が、一気に押し寄せてきたような気がした。
今まで森川さんの演じてきた「アニー・ヒラカワ」さんは、ひなたとの会話を通じて、「ラジオ英語講座」「回転焼きのあんこの味」「あんこのおまじない」といった、日本での思い出のモチーフと出会う。その度にアニーさんは「安子なのか…?」といった雰囲気を匂わせていた。
それらは安子の過去を思い出すための些細なモチーフ。それらが積み重なった後、「稔さんとデートで観た映画」が登場して、抑えきれなかったのだろう。
そのシーンを思い返すと、安子の気持ちが痛いほど伝わってきて、胸が熱くなる。
「日向の道を歩けば、きっと人生は輝くよ」
愛する夫・稔さんや家族の死。それでも、「たちばな」を立て直そうと必死に働く安子だったが、兄・算太からの裏切り。安子は子供のるいに孤独や額の傷だけでなく、心の傷を負わせてしまう。るいに「I HATE YOU」と言われ、アメリカへ旅立ってしまう。
暗闇の中で、挫けそうになったとき、安子には助けてくれた人がいた。家族や稔さん、勇ちゃん、ロバートさん、るい、ひなた。寄り添って、手を差し伸べてくれる人がいた。
ひなたの道へ導いてくれる人がいた。そして何より、「ひなたの道」を歩こうと前に進む力を彼女は持っていた。
完璧じゃないし、間違えることもあるし、失敗することもある。どんなに不恰好に見えても、安子が大事に大事に作り続けた「たちばなのあんこの味」は、安子の知らないところで、いろんな人を救っていく。
安子はたくさんの人を救っていた。安子がるいに伝えた「あんこ」が、文ちゃんの芝居の心の支えになっていたり、モモケンさんの心を動かしていたり…。
誰だって間違えるし、完璧に理想通りに生きることはできない。絶望の淵で、暗闇の中で彷徨い歩き、それでも、ひなたの道を探して、生きていけばきっと、人生は輝く。
不恰好だって、完璧じゃなくたって、いろんな繋がりを紡ぎながら、「ひなたの道」を探して、歩いていこうとする。暗闇が来ても、それでも生きていく。ただ前に進んでいくしかない。この物語に登場するのは、そんな心を持った人たちだ。
「それでも生きていく」
その言葉が初めて、私の中で一番、胸にすとんと落ちたような気がした。
この半年間、平日の朝8時から15分。この朝ドラ「カムカムエブリバディ」を見続けながら、いろんなことを考えていた。これまでの物語の中では、たくさんのパズルのピースが散りばめられていた。最終話が終わって、ようやくパズルが完成したような気がした。
春、これから新年度が始まる。この物語が教えてくれたことに励まされながら、前を向いて、私にとっての「ひなたの道」を探しながら、歩いていきたい。
この物語の中で、彼らがそれぞれの物語を紡いできたように、私は私の物語を紡いでいきたい。