【短編】金のうんこをだす犬
私の家には犬がいる。
めちゃくちゃうんこをする。食べた量の倍はしてるように見える。
私はいつも、「あ、また気張ってる…」と眺めているだけだけど、お母さんは「あんた!またうんこして!一日何回したら気が済むの!」って言ってる。
犬は「なんか、すみません。でも出ちゃうから…」って顔してる。
そりゃそうだわな。自然の摂理だし、なんも恥じることなんかない。
うちにいる犬というのは犬のくせに愛嬌はないし、芸もできない、飼い主にたまに噛み付くこともあるし、ただご飯を欲しがる茶色い物体と言ったところである。
そんなポンコツでも大切な家族であり、そのかわいさは私たちにしかきっと分からないと思う。生きてるだけで価値がある。
なーんにもできないけど、それでいい。犬だから仕事もしないでいいし、趣味もなくていい。時間にもお金にも責任にも急かされず気ままに、そして退屈に生きている。
私は犬になりたいとすら思うことがある。でもやっぱ退屈そうだからやめとくのだ。一人で出かけることも、ネットショッピングも、ディズニーツムツムもできないのだ。退屈すぎる。
犬はそのありったけの退屈を食と排泄に注いでいるように見える。
うんこは彼にとっての趣味であり、仕事であり芸術…アートなのかもしれない。
でも人間にとってはなんの価値もない。ティッシュで掴んでゴミ箱に捨てるだけ。
犬は出したものをお母さんが掴んで持っていくから「お母さんはよっぽど自分のアートを気に入っているんだ…」と思ってるような気がする。
そんなある日の晩、犬は金のうんこをした。
私もお母さんも最初はなんかすごい病気なんじゃないかってすぐ病院に連れていこうとした。
でも、普通に考えてありえないし、第一ほんとにこれが純金製のうんこならばきっとこの子はどこかの研究施設に連れていかれて体をズタズタに切り開かれてもう二度と会えなくなる気がした。
なんか元気そうだし、そのまま様子を見ることにした。
うんこを観察した。黄金色に輝いている。
触ってみる。カチカチという感じではなく、まだ固まってない、柔らかい感じだ。
匂いは、、ない。
昨日は何を食べた?
―ドックフードだ。金属なんか出てたまるか。
なぜ?なぜ金のうんこが出るの?
試しに形を整えてみた。
なんかそれっぽい。テレビとかでよくある延べ棒みたいな感じ。
お母さんが「ねぇねぇこれさ明日質屋さんに持って行ってみない?」って言った。
たしかに本物か気になるけどそれはいろいろOKなのか…?衛生的に、倫理的に…
でも鑑定してもらえばはっきりする。
次の日。
金のうんこは約5万円で買取になった。
私もお母さんも目が覚めるような気持ちだった。こんなことがあっていいのか。
それから毎日毎日、犬は金を産むようになった。体調はいたって普通そうだった。
犬の排泄なんか気にもとめなかった私たち親子は犬がトイレでスタンバイする度に全力で応援するようになった。
金のうんこは1日に1回、買い取ってもらう。同じお店にばかり行くと怪しまれちゃうからって色々なところに行って換金した。我が家はどんどん潤っていった。
最初は色んな葛藤もあった。無から金を産むなんてそんな錬金術を超えた技この世にあってはならないし、こんなポンコツ犬ができるはずない。
「でも、12年も飼ってるんだもの恩返しみたいなもんじゃない?」
普段オカルトとか幽霊を信じない私たちは都合のいいように考えた。
「ほら、猫も20年生きたら猫又になるって言うじゃん!犬もそんな感じで物理法則を超えた何かがあるんだよきっと!」
金のうんこは私たちの生活を徐々にゆがめていった。
お母さんはパートをやめて犬につきっきりになった。
私はお小遣いの残りを計算して買い物をすることがなくなった。だって犬になんか食べさせればお金なんかじゃんじゃん出てくるし。
お父さんは働く意義を失って仕事辞めて部屋に引こもるようになった。
犬は、どうなんだろう。なにもわかってないのかな。今まで通りアートを産んでるだけだもんね。
お母さんは犬のうんこの回数を管理して「あんた!今日は1回しかしてないじゃないの!もっと食べてもっと出しなさい!」なんて言うようになった。
犬は「なんかすみません。でももうお腹スッキリしてるんです…」みたいな顔をしてる。
犬は前みたいに無意味に生きることを許されなくなってしまった。
体調に障るといけないからって私もあんまり遊ばせてもらえなくなった。
なんとなく、家の中がいつもピリピリしてる感じになった。犬のために厳戒態勢なのだ。
今では犬は金を産まなくてはいけない。金を産むから価値があるみたいになってる。
「犬よ、犬。なんとなく前とは違うな〜って思ってるでしょ?だって最近便秘気味じゃん。犬って結構デリケートだもんね。環境の変化で食欲なくなったりうんこしなくなったりするよね。前の方が良かったなーなんてね?」
犬は真っ黒な瞳で私を見つめていた。
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