アメリカの医療【SLE患者の体験】
2020年にアメリカに移住しました。10年前に発症したSLE の持病を抱えて渡米。定期健診を日本で受けていたので、紹介状を持ってアメリカでも定期健診を希望しました。治療もアメリカをベースにしましたが、そこで体験した「アメリカの医療」をお伝えします。
【1】アメリカの医療で必要なもの
①保険証
アメリカの医療の高さは世界的にも有名です。
「がんになれば家を売らないといけない」と言われるのはその高さ故です。
採血に18万円。ER(救急病院)だと50~100万円コースと言われます。
そのため、保険加入は必須となってきます。もちろん安くはありませんが、
万が一の病気、怪我の為には必要なものです。
私も採血と診察は月に1回は行くので保険に加入しました。月に大体200ドル前後の保険ですが、入っているおかげで1回あたり40ドルで診察してくれます。
保険の加入方法としては、働いてる会社で保険に加入するか、個人で保険に加入します。しかし、入院や手術で医療費が高額過ぎて経済的に医療費を払えない人たちのために寄付による基金もあります。アメリカらしい「寄付の精神」を感じます。
また、アメリカの保険の値段や体験談については保険会社HPでも公開しています。
損保ジャパン↓
②体の部位と状態の英単語を知っておく。
病院に行くと受付を済ました後、診察に入りますが、まず自分の病状を伝えます。
どこがどうなっているかを伝えるにあたり、最低限の英語は必要です。
・【咳】cough
・【熱】fever
・【痛み】pain
は、ドクターからの質問や自分から発言するときに必ず出てくる単語です。
後は【どの部位】かを伝えるのに単語を知っているとスムーズに病状を伝える事が出来ます。
聞き取りの面でも、採血の結果やそれに伴う治療の方法や薬の説明などを受けます。初めて受診した時はほとんど聞き取ることが出来ず、夫に頼りきりでした。言葉だけで心配であれば、治療方法を書いた紙などもらう事が出来ます。
”Can I get documentation about the dosage of my medication and my next appointment?”
「薬の量や次回の予約に関する資料をもらう事はできますか?」
というと、その場でカルテの一部をプリントしてくれました。
【2】医療システムの違い
アメリカではまず公的医療保険と民間医療保険に分かれます。公的医療保険は65歳以上の高齢者および障害者等が対象でありメディケイドは一定条件を満たす低所得者向けの保険なので、多くの家庭では主な医療保険プランであるHMO・PPO・POSのいずれかに入ります。今回はSLE治療の日本とアメリカの差をお伝えするので、保険についての詳細はこちらの記事で分かりやすく説明されていたのでご参考ください。
私もHMOに加入していて主に主治医(PCP)を指定し、ファミリードクターのところで診療を受けるのが普通です。特定の膠原病専門医に行くためにはこの主治医から紹介状を出してもらわなければなりません。必ずしも家の近くで希望の病院が見つかるわけでもないので、半分掛けに近いものを感じますが選択肢もあまりなくそのまま指定された病院に行くことが多いです。
【3】SLE(全身性エリテマトーデス)の診察と新薬治療
日本から紹介状には今までの治療経緯、薬の処方を書いてもらっていました。
採血の結果から経過を判断して薬を処方する治療の流れは同じ。
しかし、薬に対しての感覚の違いが浮き彫りになってきました。
①「日本の医者は薬を出し過ぎる」
膠原病は自己免疫疾患の病気で私の薬は主にステロイド治療ですが、
免疫抑制剤を何種類か服用しています。
薬の種類を見てもらうと「多すぎる」と言われ、減らされた薬、追加された薬がいくつかありました。
・減らされた薬・・バクタ(抗菌剤)ボナロン(骨粗鬆症治療剤)ランソプラゾール(胃酸の産生を抑制)*薬の変更
・増やされた薬・・プラケニル(膠原病の病状を改善する薬)オメプラゾール(胃酸抑制薬)*薬の変更
薬に対しての考え方としてこんな違いがあると思います。
日本→ステロイドなどの薬の副作用を服用時から防止するための薬を処方。
アメリカ→病状が出てるものについて薬を処方、副作用についての未来の対策は無し。
②新薬ベンリスタを点滴したら悪化しました。
渡米して1年半。夏の紫外線が強くなる季節は倦怠感が強くでて、調子よくありませんでした。急に悪化したときに私の状況としては、日系の会社で週3日の体力仕事バイトから外資系で技術系(仕事フル英語)でフルタイムで働きだした時でした。まだ英語もままならない私の語学スキルで新しい仕事に集中するのにだいぶ精神的に消耗し、ストレスを抱えていたのは否めません。海外なので、どうしても「がんばらないと」が背中を押してしまっていたのかもしれません。
初めてSLEを発症した時の状況(体重低下・発熱・倦怠感・関節痛・筋肉痛・朝の関節のこわばり・胸の締め付け・不眠・動悸)と同じ状況が起き、耐えられずER(緊急救命室)に行きました。
専門医の元ではなかなか検査されなかった「レントゲン、心電図、CT、を含む採血」を行い、異常が無いか調べましたが、「膠原病の病状が強いので主治医に聞いてください」とその時は点滴だけされて帰されたのでした。
次の日に主治医の診察に行き、新薬「ベンリスタ」の投与の提案がされました。2週間おきに点滴で3回投薬し、3回目以降は1カ月をごとに3回、合計6回の点滴をします。
初回は病状が収まらず、反動で発熱が3日続き、「副反応だ」と言われました。しかし2回目の点滴後両肩の関節に激痛が走り、体を支える事も出来ず、倒れこむと胸の圧迫感で締め付けられた状態で息が出来なくなり、座ったまま痛みで悶絶するという夜中を3日ほど過ごしました。体力と精神的にも消耗し、睡魔も襲ってくるものの、痛みも襲ってくるのでふらふらでした。
電話で主治医に緊急連絡、またER(緊急救命室)に行くように言われました。
簡単にERに行くように言われますが、1回にかかる費用も高額で、一般的にこちらの人は躊躇します。保険が無い場合100万円ほどかかるケースもあり、それだけ皆行きたがりません。私の保険でも1回$200はかかり、行っても点滴くらいしか処置してもらえないので、結構悩むところでした。
結局2回目のER(緊急救命室)に行き、心電図など再検査されましたが、それ以上痛みを緩和する治療はされず、検査料の$200を支払うだけいう感じでした。
③結局医者もたらい回し
検査の結果は「すべて健常者の範囲内」という医者の見解でしたが、全く痛みが改善されないので、ベンリスタの投与は中止することにしました。アメリカは患者の意思優先なのですんなり中止してくれたことは良かったです。
結局「なぜ痛がるのかわからない」というので、胸が痛いなら心臓内科、腎臓が痛いなら腎臓内科を紹介すると言われました。
それぞれに診察と医療費も時間もかかってくるので本当に毎日病院に行くスケジュールになりそうでした。診察は予約制、医者が変わると都度採血も変更される。自分が分かる主治医に変更した方がよさそうだという夫婦の話し合いで、一度言葉の壁もストレスに感じていたので、日本で精密検査を受ける事にしました。
薬の量についても後半は「ステロイドを倍にして」しか言わなくなりました。最後には2か月前は5mgだったステロイドが40mgに増やされていて、胃の胸焼けや背中(腎臓のあたり)が刺すように痛くなってきました。
ただ言いなりではなく、体の不調に危機感を感じ、一度治療をストップすることは必然だった気がします。
アメリカの多くの人が医者に行かず、「予防医学」を重要視しているのも分かる気がしました。
④薬の処方箋
薬は診察の際に、家の近くの薬局にデータが送られてその日のうちに受け取りに行きます。自分で止めなければ、毎月処方され、薬局から取りに来るように連絡が来ます。3か月は処方箋無しで薬を取りに行くことが出来ます。日本では最長3か月までの薬は1回の処方箋で受け取れますが、3カ月後はまた診察を受けて処方箋をもらい、都度診察が必要です。
アメリカでは同じ薬であれば、追加出来たり止めたりと調整できるのは、「薬を必要なだけ手に入れる事ができる」というのはいいなと思いました。
【4】海外の医療まとめ メリット・デメリット
日本とアメリカの医療を体験して、自分の体と自分の治療方針とのバランスを考える必要があります。自分の意思表示も必要でそのためにメリットデメリットは認識する必要があると感じました。アメリカで医療を受ける際は、認識していると心づもりも出来ると思いますので、ご参考ください。
①メリット
・患者の希望の治療を優先してくれる。(サプリなどを使ってもいい)
治療を途中でやめる事もOK。
・薬は継続して処方される。薬局で延長や、余っている薬があれば止める事が出来る。
・治療が選べる。医療のグループを変更して医者を選ぶことが出来る。
②デメリット
・医療費が高額。個人の保険に入っておかないと払えない場合も。
・言葉の壁。主張が伝わっているか分からない。通訳アプリを使うも、
完全ではないのでストレスを感じる。
・医療システムが複雑。かかりたい医者に行くまでに時間がかかる。すべて予約制。そこから採血や再診の予約など、手間と時間とお金がかかる。
いかがでしたか。日本では特定医療疾患に対しての手厚い社会保障などがありますが、海外ではありませんし、普段から医療は高額で多くの方が敬遠する病院です。保険も「歯医者」「眼科」などそれぞれに係るので、本当にお金のかかる医療システムです。
ただ、治療の幅が広がるのも事実。医者を選べたり、治療について話し合うこともできるので、自分の意思で治療する意識が変わりました。
この体験が多くのSLEの患者さんに参考になればと思います。