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【小説】おいしいものを、すこしだけ(無料版)

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図書館司書が書く、図書館司書の登場する小説です。 全23話(完結済)
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記事一覧

おいしいものを、すこしだけ 最終話

 いろいろなことがあってから、まだほんのすこししか経っていないようでもあり、すべてがずい…

晴れる
7か月前
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おいしいものを、すこしだけ 第22話

 三十六回目ともなると、もう誕生日がそれほどめでたいということもないけれど、亜紀さんが何…

晴れる
7か月前
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おいしいものを、すこしだけ 第21話

   写真館で一緒に写真を撮りませんか、と言い出したのは亜紀さんだ。梅雨の合間、何日かい…

晴れる
7か月前
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おいしいものを、すこしだけ 第20話

 それから亜紀さんが指輪をしているところを見たことがない。法律的に無効なのはもちろんだと…

晴れる
7か月前
1

おいしいものを、すこしだけ 第19話

 最近は亜紀さんの髪にも何本か白いものが混じるようになっていて、本人もすこし気にしている…

晴れる
8か月前
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おいしいものを、すこしだけ 第18話

 最初は私も腹を立てていたけれど、二、三日すると、何もあんなにむきになることもなかったよ…

晴れる
8か月前
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おいしいものを、すこしだけ 第17話

 休日に図書館でボランティア活動をしてみようかと思う、と言ったところ、亜紀さんはいい顔をしなかった。 「何をするんですか」 「何って、配架とか、いろいろ」 「その図書館は問題があると思います。図書館祭りとか、一時的なイベントでボランティアを募集するならともかく、配架のような通常業務で人を頼むというのは、あきらかにその図書館は恒常的な人手不足ということなのに、どうして職員を雇わないんですか。配架は誰にでもできると思われがちですが、職員が蔵書の動きを知るうえで重要な仕事です。職員

おいしいものを、すこしだけ 第16話

 この建物はマンションのくせに断熱性が良くない。カーテンとサッシを全部きっちり閉めても、…

晴れる
9か月前
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おいしいものを、すこしだけ 第15話

 うちに帰ると、亜紀さんはいなかった。  今日は都心で人と会うので夕飯はいらないと言って…

晴れる
9か月前
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おいしいものを、すこしだけ 第14話

 元日の風邪以来、亜紀さんはあまり具合が良くない。寝たり起きたりしているうちに正月休みが…

晴れる
10か月前
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おいしいものを、すこしだけ 第13話

 年末年始に何の予定もなくなったので、例年どおり帰省することにした。荷造りをしているとコ…

晴れる
10か月前
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おいしいものを、すこしだけ 第12話

 思えばその日は朝からろくなことがなかった。    エスカレーターの故障であと一歩のところ…

晴れる
10か月前
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おいしいものを、すこしだけ 第11話

 ジロの仕事が忙しいことはもともとわかっていた。それでも夏前までは一応日曜日の休みは確保…

晴れる
10か月前
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おいしいものを、すこしだけ 第10話

「萩原さんは給料分の仕事だけしていればいいから」  そう言ったのは深谷さんだ。私と同じ契約社員で、更新と再雇用を繰り返してもう十年以上働いている。小柄で色白で、いつも瞼が腫れぼったく、下唇がすこし出ているせいか伝統芸能のお面のように見える。腰が悪いそうでコルセットを装着していて、そのせいでアヒルのようにひょこひょこと歩く。年齢は亜紀さんと同じくらいだ。  私が不服そうな目をしたせいか、深谷さんは言い足した。 「がんばるのはいいけど、あまりにも割に合わない努力は長続きしないし