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しくじりプロダクトグロース

はじめに

プロダクトグロースについては、わかりやすく体系化された記事も多いですが、その一方で、Product-Market Fit(PMF)以降「グロースするぞ!」という段階になって、そのあと大きな成長ができず伸び悩む……といった状況を、何度か見てきました。

この記事では「しくじり」の名の通り、そんな失敗や反省をもとにした学びを中心にまとめています。


よくある失敗

PMF以降、LTV > CAC のユニットエコノミクスが成立し、事業として安定した黒字化ができていると、「あとは業績指標を見て、それを伸ばすだけ」という考え方になり、その結果、グロースさせるどころか その後のプロダクトや事業の成長を妨げてしまうことがあります。

わかりやすい事例を上げるならば、以下のような状況に陥るケースです。

・プロダクトがひとつの「完成」を迎えたという意識になり、その後出てくるプロダクト施策が、細かなUI改善ばかりになってしまう

・事業系の指標を中心に追うようになり、目先の利益に直結する施策や、効率のよい獲得施策ばかりに走ってしまい、結果的に全体のUXを棄損してしまう

・月次の売上計画数値など、短期的な業績達成が目的化してしまい、現場がギャップフィルに追われて「本質的な成長」をしている実感がない

もちろん、事業としての健全性の把握や、グロースのために、下記のようなアプローチをとることは正しいことですし、KPIマネジメントは事業成功のために非常に有効です。

・利益ベースのExcel計画、事業KPIツリー運用
・LTV >CAC 最大化

しかし、KPIは、意外と策定・運用が難しく、そもそものゴール設定や戦略自体が明確でなかったり、そこにWhyがないと、途端に悪影響を及ぼすことになります。


Whyなき利益至上の罠

短期的な事業計画達成を重んじる風潮や、利益を頂点とするようなKPIツリーの運用が進むと、いつのまにか、利益そのものが目的化してしまうことに繋がります。

たとえば、事業計画数値からブレイクダウンして、下記のようなKPIツリーを策定した場合、頂点(KGI)が最終目標指標となり、それを達成するために下位指標が連なる、という構成になります。

これにより、あたかも「目先の利益を最大化する行動をとるのが正」という行動指針であるかのように、現場に捉えられてしまうことがあります。

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利益でなく LTV/CAC で見る場合は、短期のP/L的な目線よりも長期的なリターンまでが視野に入りますが、それでも本質を見失うことで、少なからず「利益至上」に走る危険を孕みます。


また、利益頂点のKPIツリー運用であっても、かたちとしては、組織が一丸となってひとつの目標に向かう状態になりますし、下記のようなメリットも考えられます。

・組織メンバーの全員が、業績目標に対して、どのようにどれだけ貢献しているかが実感できる

・利益創出に対してまったく異なるアプローチの施策を、事業に対する共通指標で評価することができるようになる

・目標達成のためにできることが、(いい意味で)無限に考えられる

しかし、あるべき姿や方針についての共通認識を持たないまま、安易に利益を頂点とした運用をしてしまうと、上記のメリットが裏返り「局所最適化の集まり」になってしまいます。

目指す方向性が合わないと、施策の一貫性が損なわれ、とっちらかったものになるのです。また、方向性が無限に生まれることで、ときにサイロ化やチーム間の利害対立をもたらします。


もちろん、組織全体にMVVや「Why」の意識が浸透していたり、プロダクトが成熟して確立し、各ファネルや中間指標の改善幅が大きかったりする場合など、このようなツリー運用で大きく成長が見込める場合もあります。
ここで問題になるのは、あくまで「Whyなき利益至上」です。


■KPIの形骸化

利益などのいわゆる事業観点での成果を示すような指標を、短絡的に追うかたちで運用した場合、KPIの形骸化を引き起こすことにも繋がります。

プロダクトにおいて、具体的なユーザー行動やユーザー満足度から離れた数値を追うと、現場のメンバーが数値の解釈をうまくできず、解像度が低い状態のままやみくもに施策を打つような、「なんちゃってデータドリブン」状態をもたらします。

なにかの指標が悪化したその裏に、特定セグメントでのUX棄損という事象があったとしても、それを突き止められなかったり、その課題自体を解決する方向に向かわなかったり、表層上の数値改善自体が目的と化してしまう、ということです。たとえばPVが下がったとき、原因を探らずにいきなりPVを増やす施策を打つ、といった数値いじり的な施策が横行します。

本来はそうではなく、下記例での a→b→c の流れのように、ユーザー行動がイメージできるように原因を掘り下げていくことで、よりクリティカルなアクションに繋げていくことができます。

例:DAUが減少した場合の対処
a. DAUが下がっている 
  →とにかく全体DAUを上げる施策を打つ
b. ヘビー層が減っている
  →とにかく利用頻度を上げる施策を打つ
c. 新規のヘビー化率が減っている
  →獲得層やオンボーディングを見直してみる

上位階層の成果指標を追う場合、ただその指標自体を操作するのではなく、指標の意味を理解した上で、何が起きているのかという原因や課題を探って解像度を上げていき、本質的な改善に臨む、という対処が求められます。


■目的・プロセス・成果を混同しない

また、指標設計の全体構造を頭にふまえ、何が結果で、何が実際に改善すべきものかということを意識して、本質から離れないようなKPIマネジメントが大切になります。

個人的には、下記図のような考え方をベースにしています。ゴールと中間指標を意識的に区別するイメージです。

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グロースハック的な話によく出てくる いわゆる「マジックナンバー」的なものについても、その数値を満たすこと自体に意味があるのではありません。

そうでなく、本質は、その裏にある顧客の意識や行動変化であることを理解しておかないと、ただその指標を上げる行動をとっても、上位指標は改善されないということになります。


■顧客志向なき暴走

顧客の視点を見失い、短絡的な利益至上の風潮が高まると、現場では、直接的に効果が出やすいプロモーションやマネタイズ施策が優先的に進んでいきます。

KPIツリーの運用やグロース施策が、誤ったかたちで暴走することで、プロダクトのコアターゲットや全体のUXを無視して、各部門が各々 CAC抑止や LTV向上に貢献しそうな施策などを投下する といった事態を引き起こすのです。

スマホゲームでよくある、実際のゲーム内容と異なるミニゲームが広告面で多用されるケースも、これではないかと思います。おそらくプロモーションチームが、獲得効率の良いクリエイティブを突き詰めていった結果、実際のプロダクトとは異なるものに行き着いてしまったのでしょう。

また、短期的な利益を追うことで、積み上げで効果を発揮するプロダクト改善がおろそかになったり、負債の蓄積や、レピュテーションリスクの増大が進んでいきます。

その結果、最悪のケースとしては、プロダクトの価値が逆に損なわれていき、なんとなく役立ちそうな機能の寄せ集めになり下がり、そしてコアバリューが曖昧な「スーパーアプリのできそこない」ができあがります。

PMF以降は、特にユニットエコノミクスの健全化に寄った、事業観点の成果を表す上位指標に目が行きがちですが、それによって、実はベースとなる Problem-Solution Fit(PSF)から離れてしまう危険さえ孕む、という例だと思います。

おすすめ
・podcast「成長率だけを追いかけ過ぎると罠にハマる。
・記事「よいKPIを考えるうえで重要なこと
・記事「良いKPIとはなにか、あるいはガールズバー施策について
・記事「グロースについての9つのPrinciple
・記事「LTV思考の落とし穴
・書籍「最高の結果を出すKPIマネジメント
・書籍「KPIで必ず成果を出す目標達成の技術


■PMFは一度達成したら終わり、ではない

そもそも、買い切りの製品でもなければ、ひとつのプロダクトにおいて「PMFは一度達成したら終わり」というものでもないと思います。

PMFを達成したとしても、後発に模倣されることもありますし、ニーズやトレンド、市場も変わっていきます。そしてスケールのため、ターゲット層を変えることになれば、またPMF検証は必要になります。

ということで、PMF後も「PMFし続ける」という姿勢が必要になります。

下記、Sean Ellis氏の有名な Startup Growth Pyramidの構造表現から見ても、Growthの土台としてProduct/Market Fitがあり、通過のマイルストーンというよりも、あくまでも前提条件として捉える必要があると思います。

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成長を目指すあまり、「グロース」に目がいってしまい、本質的・大局的なものを見失うことはあります。

ただ、やはり大前提として大切になるのは、Y Combinator 創業者 Paul Graham氏の言葉を借りるならば、「Make Something People Want(人の欲しいと思うものを作ろう)」ということです。

おすすめ
・slideshare「君にグロースハックはいらない


■「方向性」の重要性

目先の業績と、事業としての本質や大局観、双方をバランス良く捉えて意思決定できれば問題ないですが、組織がある程度大きくなると、それも難しくなります。そうなると、「各メンバーが同じ方向を見て、自走できること」が大事になるので、方向性の設定と浸透に関わることは、想像以上に大きな意味を持ちます。

そもそもKPIツリー運用は、策定されたKPIをベースに業務遂行を標準化することで、権限移譲を行っても 各々がKPIに基づく適切な意思決定と自走ができる状態をつくり、組織全体の生産性を上げるものです。

つまりKPIは、各々が適切な行動を起こすためのフィードバックとなるもので、メンバーの日々の判断や行動基準となります。そのため、へたな運用をすることで、いつのまにか目的や目標についての認識がすり替わり、現場の打ち手や優先度判断に悪影響を及ぼし、悪い結果となって返ってきてしまうのです。

KPIマネジメントをする場合、前提として ゴールやあるべき姿を明確化し、そしてビジョンや戦略を反映していくほうが、うまくまわります。良いプロダクトをつくり、より浸透させていくことで大きく事業成長させたいという場合、プロダクトの現場で置くべきKGIが「短期の利益」では不適切で、むしろ本質的なOKRの運用で見たほうがうまくいくかもしれません。


■課題解決アプローチの2類型

下記は「Harvard Business Review 知性を問う」に掲載された、安宅 和人さんの整理ですが、課題解決には2つの型があるといいます。

課題解決の2つの型
1. ギャップフィル型(病気を治し健康に戻すイメージ)
2. ビジョン設定型(ゴールを見極めて 飛躍を伴って到達を目指す)

問いのアプローチ

計画数値を追って達成し続けることを目指すといったアプローチは、前者のギャップフィル型になります。しかし、良いプロダクトを生み出し広めることは、本質的には後者のアプローチをとるべきだと思います。

安定的な事業運営のため、Excelで月次事業計画数値を作成して 日々定点で進捗を追う、というのは割と一般的な運用ですが、それ自体が目的化するような動きでは、行きつくところも「計画数値の達成」それだけです。


■利益至上では生みだせない「良いプロダクト」

ひとつの例ですが、「Tableau」という、データの可視化ができるBIツールがあります。

Tableauのミッションは、公式HPに以下のように掲載されています。

Tableau は、お客様がデータを見て理解できるように支援します。このミッションは、Tableau すべての業務の原動力であり、これまでになく重要になっています。

私も業務でTableau製品を利用していたのですが、プロダクト細部の仕様でも、このミッション遂行のもとに作られていることを知って、感動を覚えたことがあります。

たとえば、データを元にグラフを作成するときに、色やマークサイズなどを設定できるメニューがあるのですが、これらは「なんとなく」や「よく使われる順」などではなく、左上から右下にかけて「無意識的な認知としての視覚的効果が強い順」に並んでいます。

つまり、ユーザー側に知識がなくとも、自然により直感的でわかりやすいグラフを作れる仕様になっているのです。

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ミッション・ビジョン、あるいは具体的な顧客のペインなど、いずれにしても「Why」の無い利益至上からは、良いプロダクトは生まれません。


ゴールに向けて必要なのは「戦略」

また、「Why」と同様に重要になるのが、あるべき姿を実現していくための「戦略」です。競争環境のなか、有限なリソースで実現に突き進むために、一貫した方針として、注力すること・やらないことを決め、リソースを最適化することこそが、戦略だと思います。

前述の通り、上位指標の数値達成に向けたKPIツリーの運用は、ギャップフィル的なアプローチには有用です。しかし、中長期のゴール(あるべき姿)に向けた戦略的なアプローチをとる場合、不向きではないかと思います。

KPIツリーというツール、思考、ビジュアルフォーマットが、戦略性と相性のよくないところがあるためです。


■KPIツリーでは表せない「独自性」と「優先度」

KPIツリーは、MECEの分解でつくっていったとしても、下記のように分解アプローチにおいて独自性を出すことができます。

<よくある分解例>
・要素(新規/既存/休眠/離脱など)
・ステップ(バリューチェーン、ジャーニーなど)
・対称概念(プッシュ/プル型営業など)

しかし、事業のような大きな指標からツリーをつくる場合、どうしても上位階層の構成は定型的なものになります。

そのため、このような独自性を出せるのは、ある程度下の階層になります。さらに、網羅的であるがゆえに、同階層の指標はそれぞれ並列表現になり、そこの注力/非注力関係を表すことが難しいです。

ツリーと戦略

ツリーというチャートの特性上、網羅的並列的な表現であるために、全体像を把握することには長けていますが、フォーカスポイントを伝え、浸透させるようなツールとしては向いていない、ということです。

逆に、このようなツリー表現は、「上位に繋がる全てのことをやる」という見え方に繋がります。目標に向けてそれに繋がる全てを実行することは、戦略性の無い、戦術ばかりの状態になります。勢いのあるベンチャーなどでは、各所が全力でPDCAをまわすことで伸ばす、というような根性論的な話もききますが、それが継続的コストを伴う場当たり的なものであるならば、長期で勝ち取る旨みはむしろ少なくなるはずです。


■KPIツリーでは表せない「長期的視点」

KPIツリーでは、下位指標の達成が上位指標の達成に繋がるという構造上、裏を返せば、下位指標は上位指標の分解、分析的なものになり、そこには共通の時間軸が存在します。ツリー表現が、ある一定の期間やタイミングにおける全体構造を示すもの、つまりスナップショット的表現、というと少しわかりやすいかもしれません。

たとえば、月別の利益をP/L的に追う場合、ツリー頂点の利益もぶら下がるコストも売上もユーザー数も、対象月の期間においての数値になると思います。(LTV > CAC の場合は、ユーザーのLifeTimeが対象期間になります。)

そのため、月次計画数値を達成し続けるためにKPIツリーを運用した場合、現場の優先度としては「短期でコスパの良い施策」を採用しがちになります。短期で効果が出そうなファネルやUI改善などの局所最適化に追われ、最終的に大きな成長ができなくなる、というループにはまります。そして、逆に、中長期で投資が必要なもの、特に不確実性の高い検証が実行しづらくなり、将来的リターンの評価、期待値を見づらい状態になります。

ゆえに、プロダクト中心の事業であるにもかかわらず、「事業計画」をエクセルで数値を引っ張るだけで作ってしまう場合など、プロダクトKPIを理想の事業収支観点でアラインされるような状態であると、現場の首が絞まっていきます。


事業継続と足元の利益確保はもちろん重要ですが、より大きな成長を目指すならば、「勝つための投資」「より大きな検証」「あるべき姿を目指す」といった姿勢が必要になります。また、体力のある方が勝つという消耗戦に飛び込むよりも、むしろ「なるべく戦わずして勝つ」を目指して、中長期観点で持続的な優位性を構築できるような戦略をとるべきと考えます。


■KPIツリーでは表せない「大局観」と「ストーリー」

KPIツリーでの思考は、構成要素を分解していくような分析的なもので、原因の探求といったギャップフィル的なアプローチには向くツールです。

その一方で、戦略は、全体としてゴールに向かっていくような大局的なものなので、KPIツリーとはいささか相性の悪いものに見えます。

ツリーと戦略

ストーリーとしての競争戦略」に学ぶならば、戦略の本質は「シンセシス」(綜合)にあり、ギャップフィル的な個別のアクションリストとは、まったく性質の異なるものです。戦略を構成する様々な打ち手は、一貫したストーリーとして自然につながる、といったことが書かれています。


■戦略策定に役立つ「ツリー思考」の例

誤解を招かないために補足しておくと、ツリー思考そのものが「戦略性」と相性が悪いというわけではありません。たとえば、戦略を立てる下準備においては、分析的なツリー思考が有効に働きます。

下記は、課金者を頂点としたイシューツリーの例です。このように、戦略の方向性を探る際の、分析的/網羅的な思考のアプローチとして活用できます。

イシューツリー

このツリーも、「課金者数を増やせるか」という「利益」に通づるものを頂点として、ブレイクダウンされたものです。

しかし、各イシューを プロダクトのあるべき姿や市場/顧客視点をふまえて分析し、そしてそこから中長期的観点で一貫して取り組む方針を決めていくという使い方になるので、短絡的な利益を指向するものとは異なります。

おすすめ
・書籍「ストーリーとしての競争戦略
・書籍「良い戦略、悪い戦略
・書籍「企業参謀 戦略的思考とは何か
・書籍「問題解決プロフェッショナル―思考と技術
・書籍「問題発見プロフェッショナル―構想力と分析力
・書籍「MBA事業戦略
・記事「改めて問う、戦略の定義とその見取り図


「戦略と実装の一致」に向けて

スタートアップの強みはストラテジーと実装の一致」という、10X 矢本 真丈さんの言葉がありますが、ゴールに向かうための戦略だけでなく、それがプロダクトに体現されるか、実現するための組織運営になっているのか、といったことが同じく重要になります。

上記で、戦略を示して組織で実行するためのツールとしては、KPIツリーは向かない、といったことを書きました。それをふまえた上で、ひとつおすすめしたいツールは「グロースモデル」です。


■「グロースモデル」のススメ

「グロースモデル」は、時間展開を含んだ成長のエンジン、つまり戦略ストーリーを図式化したものです。グロースモデルの遂行自体が、戦略という大きな仮説の検証になります。

Amazon創業者ジェフ・ベゾスが紙ナプキンに描いたとされる有名な下記図(Amazon Flywheel Effect)が、これにあたると思います。

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また、note CXO の深津 貴之さんが、よくつくっています。(参考

このグロースモデルを定義して共通認識として持ち、それに即したKPIを設定することで、数値指標を形骸化させずに「意味」のレイヤーで考える姿勢を強化することができます。


■「グロースモデル」は「ビジネスモデル」とは異なる

「グロースモデル」は、ビジョンを実現する手段であり、持続的な競争優位を確立するための枠組みとなります。空間的な配置構成を図式化した「ビジネスモデル」とは異なり、時間の流れや因果関係をベースに配置した構成図になっています。また、ビジネス観点での収益向上だけでなく、必ずユーザーの体験価値についての視点を取り入れます。

たとえば、同じ広告収益モデルのメディアでも、「BuzzFeed」と「スマートニュース」では成長戦略が大きく違います。下記が簡略的に示した図です。

グロースモデル例

少々乱暴な整理ですが、バイラルメディアのBuzzFeedでは、ユーザーが思わずシェアしたくなるコンテンツを配信し、SNSを通して広く拡散することで、PVを増やして広告収益を生み出し、そして1コンテンツあたりの原価率を下げていきます。
そのため、よりSNSでシェアされやすいクイズや診断などのコンテンツ制作が強く、広告メニューとしても、より読まれて拡散されるようなスポンサードコンテンツを強みにしています。逆に言えば、ユーザー訪問の導線としてコンテンツフックのシェアが多いので、媒体指名での愛用が中心になるようなアプリ開発には注力していません。

一方スマートニュースは、ユーザーが欲しい情報を見やすくまとめることで、アプリのDLと頻繁な利用を促進しており、結果、現在では「利用頻度No.1メディア」を謳っています。(Media Guide 2020.7-9 より)
もともとはニュースアプリですが、エンタメや趣味などのカテゴリ、天気や雨雲レーダー、クーポンやセール情報など、生活のなかで毎日見るような多彩なコンテンツを扱っています。自社制作はしていませんが、よりよい多くの情報を調達すべく、情報元に対して、PVに応じた広告収益の還元や、記事配信までのサポートなど、手厚い対応をしています。また、アプリを高頻度で使ってもらうことを狙っているため、オフライン対応やカスタマイズ性など、使いやすさも重要になります。


■独自に定めた方向に、みんなで進むこと

上記のBuzzFeedとスマートニュースの例で、広告収益モデルのメディアとしてKPIツリーをつくった場合、上位階層はどちらも同じような構成になると思います。また、広告単価とPV(広告imp)を上げる施策が、双方ともに無限に出てくるかもしれません。

対してグロースモデルは、そのプロダクト/事業成長に向けての一貫した流れを示しているので、方向性がそれぞれ明確になり、個々に出す施策のベクトルも合いやすくなります。局所最適の集合ではなく、相互作用として連動して成長していくモデルを描くことで、「共通目標は一緒なのにアプローチが違うゆえに、こちらの指標は上がるが、あちらの指標は下がる…」といった、部門間の対立が生まれにくい構造になります。

また、バリューチェーンのどこにどう注力するか、必要な組織体制なども見えてきます。たとえば、BuzzFeedはコンテンツ制作と流通がしっかり連携して拡散に力を注ぎ、スマートニュースは コンテンツ調達~掲出とプロダクト開発、多様なコンテンツを生かしたアプリプロモーションに力を入れると思います。

プロダクトベースの事業計画では、プロダクト単体のロードマップを描くことに閉じてしまうこともあります。しかし、顧客に直接提供されるプロダクトの機能だけが、実装/改善対象ではありません。ユーザーの体験すべて、そしてそれを生み出すためのオペレーションなども、すべて対象になります。戦略をシンプル化して、プロダクト、そして事業プロセスや組織にも実装していきます。

一貫した戦略に則って各プロセスを整備していき、そして良い連鎖を繋げていくようなかたちをとれば、一部分を他社に真似されてもあまり痛くない状態を実現できます。流れを繰り返し強化することが、将来的に持続的な競争優位を生み出すことに繋がるのです。

おすすめ
・記事「スタートアップの強みはストラテジーと実装の一致
・記事「noteにおけるコア体験と相互作用メモ
・記事「東京都コロナ対策サイトへの諸々のメモ
・記事「サービスの「成長サイクル」を描けるか?
・記事「グロースサイクルの本質とは何か?
・書籍「Process Visionary


さいごに

いままでの業務のなかで、「自分の力不足で、プロダクトが成長しないこと、事業や組織に貢献できないこと」が、自分は何よりもつらかったです。私自身、決して輝かしく活躍するプレイヤーではなかったので、偉そうなことは語れませんが、逆に自分の失敗や反省からでも、同じような悩みを抱える誰かの役に立つことができればうれしいです。

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