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【ショートショート】革命前夜

 神様は老人ホームにいた。
 もぢろん、ホーム側は気づかない。本来は空き部屋のはずだが、何年も前からそこに神様(仮称タナカ)が入居していると思い込んでいる。
「タナカさーん、ご飯ですよー」
 介護士のイマムラがドアを開けて、タナカに声をかけた。
 タナカは大きな食堂に行った。
 長机にずらりと並べられたプレート飯と味噌汁。
 大音量の大型テレビ。
「うわあ。すっごいおいしいです、このシフォンケーキ!」
 とタレントが甲高い声で叫ぶが、食堂は静けさに包まれている。
 タナカは目の前に座っているミナガワに、
「この味噌汁、ちょっと薄味じゃないかね?」
 と問いかけてみた。返事はない。
(無気力だなあ)
 なにもミナミに限ったことではなく、入居者のほとんどがそうだ。
 タナカは考え込んで、人じゃらしを作った。
 ためしにちらっと振ってみる。
「えっ」
 ミナミが目を見開いた。
「いま、なにか」
「なに?」
「あれー、どうしたんだろう。タナカさん、このへんでなにか見ませんでした?」
「いやー、べつに」
 横を通りかかったイマムラがびっくりしている。
「ミナミさんが喋ってる!」
 タナカはこっそりイマムラのベルトに人じゃらしを差し込んだ。
 イマムラが動くたびに、あたりがざわめいていく。
「ふふ」
 タナカは街に出るとそこら中に人じゃらしを仕掛けて、どこかへ去っていった。

(了)

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